デイリー・アップデート

2025年9月24日 (水)

[ナイジェリア] 

9月23日、ナイジェリア中銀(CBN)は金融政策委員会(MPC)を開催し、政策金利を50bp引き下げ、27.00%とした。利下げは2020年以来、5年ぶりとなった。また、商業銀行の現金準備率(CRR:Cash Reserve Ratio)も50.00%から45.00%に引き下げられた。

 

オラミエ・カルドソ中銀総裁は、食料や物流等のインフレの低下を背景に、直近8月のインフレ率が20.12%と、5か月連続で低下したと説明。CBNが継続してきた金融引き締め政策によって、為替レートが安定し、資本流入が増加し、経常黒字の拡大(一般的に自国通貨高となる)をもたらしたことがインフレ期待の抑制をもたらしたと中銀の金融政策を評価。また、今後数カ月はプレミアム・モーター・スピリット(PMS、注)価格の低下が見込まれ、また農業が収穫期を迎えることにより食料インフレもさらに低下することでディスインフレ・プロセスが進行し、物価が安定する見通しであることから、利下げを決定したと述べた。

 

ナイジェリア経済は2023年のボラ・ティヌブ大統領による燃料補助金の段階的廃止や、変動相場制移行といった「痛みを伴う改革」を経て、ようやく回復基調にある。2025年第2四半期の実質GDP経済成長率は+4.2%で、4年ぶりの高成長を記録した。主な理由は、輸出の約7割を占める原油生産量の拡大(第2四半期の生産量は日量168万バレルに回復)と、GDPの1/4を占める農業の回復、そして1月に行ったGDPの算出計算の見直し(リベーシング)によるものだ。また、経常収支の黒字は、2024年から本格稼働が始まったダンゴテ製油所(日量最大65万バレル)からの国内向けガソリン販売が大幅に増加し、石油精製品の輸入が大きく減少したことが要因となっている。石油精製品の国産化は外貨の流出を防ぎ、為替を安定化させ、インフレ率の低下とガソリン供給価格の低下によって経済活動が拡大するといった経済の好循環をもたらしている。中銀によるとナイジェリアの外貨準備高は輸入の8.3か月分をカバーする430億ドルまで増加している。

 

世界銀行はナイジェリアの2026年の実質GDP成長率は3.6%、2027年は3.8%に拡大すると予測。これはサブサハラ・アフリカの平均成長率とほぼ同じ水準に回復することを意味する。2027年に大統領選を控える中、ティヌブ大統領は8月の演説で年率7%の成長を公約するなど野心的な姿勢を示している。

 

他方で、原油生産量は油田の成熟化や産油地帯のリバーズ州の治安悪化等の影響を受けて、ピークを迎えた2005~2006年の日量250万バレルには及ばない。また、通貨ナイラも1ドル=1,500ナイラ前後で推移し、変動相場制移行前の1ドル=460ナイラには程遠い状況にある。

 

しかし、国内では原油に次ぐ主要輸出品である液化天然ガス(LNG)の大規模開発プロジェクトも進行しているほか、人口2億3,000万とアフリカ最大の人口を擁する国内の消費市場の拡大も続いている。ナイジェリアでは、同じく高インフレに悩まされてきた西アフリカのガーナと同様に経済状況の改善傾向がみられる。

[OECD] 

9月23日、OECDは経済見通し(Economic Outlook)を公表した。世界経済成長率は2025年に3.2%(前回6月時点から+0.3pt)へ上方修正されたものの、2024年(+3.3%)から減速する。2026年は+2.9%(据え置き)へと、一段と減速する姿が予想されている。

 

2025年上半期の経済成長は、想定以上に底堅かった。米国でのAI関連投資や中国の財政政策などが下支えになったこともあり、世界経済は持ちこたえてきた。米国の関税措置は、企業努力などもあり、これまで悪影響が表れていなかった。しかし、米国の実効関税率は19.5%まで上昇、1933年以来の高水準になったこと、すでに在庫積み増し効果は剥落していることもあり、これから悪影響が表れる。関税引き上げが設備投資や貿易を抑制することも、2026年の成長を押し下げると見通されている。

 

米国は2025年に1.8%へ上方修正されたものの、2024年の2.8%から減速する。すでに失業率の上昇など変調が見えている。ユーロ圏は2025年に1.2%となり、6月時点から0.2ptの上方修正、2024年から成長が加速する見通しだ。物価上昇率が落ち着いているため、政策金利は据え置かれると予想されている。日本は2025年に1.1%と、6月から0.4ptの上方修正となり、2024年から加速する見通しになっている。足元にかけて企業収益が底堅く、設備投資が伸びていることなどが考慮された。また、日本の物価は、食品価格が正常化するに従い、2026年に中銀目標の2%に戻ると予想されている。そうした中で、金融政策が段階的に引き締められ、政策金利は引き上げられるだろう。

 

また、世界の物価上昇率は2025年に3.4%(▲0.2pt)へ下方修正された。上昇率は2024年の6.2%からほぼ半減し、2026年には2.9%まで縮小する見通しになっている。

[中国/金] 

世界の金市場における中国の存在感がさらに増している。

 

中国人民銀行の金準備高は公表ベースで約2,300トンと、IMF(国際通貨基金)を含め世界第6位だが、中国は年間300トン以上の金を採掘する世界最大の産金国であり、海外からも大量の金を輸入しているため、中銀以外の公的部門などを含めた実際の金保有高は公表値を遥かに上回ると推測されている。人民銀行は現在、金輸出入ライセンスの簡素化案について、10月13日まで意見公募を実施している。また、中国は2025年2月、保険会社10社に資産の1%まで金購入を認める試験プログラムを実施し、金は中国の保険会社が投資を明確に許可された初のコモディティとなった。

 

6月には中国工業情報化部が、地質調査や新たな金資源の採掘を強化することで、2027年までに金資源を5~10%増やし、金と銀の産出量も5%超増やすことを目指すと発表。金・銀のリサイクルも促進し、外国投資の協力も深める。9月19日には、中国国有企業・紫金鉱業集団の子会社・紫金黄金国際が香港での新規株式公開(IPO)を発表。資金調達目標は約250億香港ドル(約4,700億円)と、2025年5月のCATL以降、世界で最大規模となる。調達資金は主に金資源の探査・鉱山開発・精錬加工などの事業拡大に充当する。

 

世界の金市場での地位向上の取り組みも加速している。6月には、上海黄金交易所(SGE)が本土外に初進出し、香港に新たな金倉庫を開設するとともに、2種類の金取引を開始。9月23日には、中国人民銀行が友好国の中央銀行に対して、SGE経由の金購入と中国国内での金保管を働きかけ、少なくとも1か国が関心を示したとブルームバーグが報じた。2022年にロシアが西側の経済制裁の一環で国際決済網から遮断され、海外資産を凍結されてから、世界の中央銀行が米ドルから金に資産を分散する動きが活発化しており、中国での金保管は西側の制裁リスク回避のための選択肢の一つとなる可能性がある。

[アルゼンチン] 

国連総会で米国を訪問中のミレイ大統領と米国トランプ大統領が会談をおこなった。会談では、トランプ大統領がミレイ大統領の再選を全面的に支持する意向を示し、前任のアルベルト・フェルナンデス元大統領を「急進的な左翼」と批判した(大統領選が2年後であり、来月の選挙は中間選挙だということを認識していなかった可能性もある)。

 

現在、アルゼンチンは政治的な不安定さと財政混乱に直面している。米国のベッセント財務長官は、アルゼンチンを重要な同盟国として支援の用意があることを示唆していた。市場では、アルゼンチンが来年に控える数十億ドル規模の債務返済に必要な外貨準備を確保できるかどうかに懸念が広がっていたが、この発言を受けてアルゼンチン売りは一旦終息し反発している。

 

トランプ大統領自身は、アルゼンチンの支援の意向を示したが、救済の必要性は軽視する発言を行っている。通貨スワップ、ドルの直接購入、政府債務の買い取りなどを含む具体的な支援策について、近々発表される見通しである。

 

ただし、これらの支援には厳しい条件が付されると予想されており、ペソの完全変動相場制への移行や財政再建が求められる可能性がある。支援発表により差し迫った危機への懸念は後退したものの、新たな融資や政策条件だけでは根本的なマクロ経済の不均衡や国民の不満を解消するには不十分とみられ、10月の中間選挙で与党が敗北すれば、投資家の不安が再燃する可能性もある。

[中国/米国] 

9月23日、習近平国家主席は新疆ウイグル自治区成立70周年記念行事に出席するため、ウルムチに到着した。現職の国家主席がこの節目の式典に出席するのは初めてであり、習氏が地方政策や少数民族政策に強い関心を抱いていることを示している。習氏は、先月(8月)開催されたチベット自治区成立60周年記念式典にも、現職の国家主席として初めて参加している。

 

今回の訪問には、王沪寧氏と蔡奇氏の2人の政治局常務委員が同行し、ウルムチ空港では、陳小江・新疆ウイグル自治区党委員会書記、エルケン・トゥニヤズ・自治区人民政府主席、何忠友・新疆生産建設兵団政治委員らが出迎えた。到着後、習氏は自治区政府幹部、新疆生産建設兵団、宗教関係者、駐屯軍などと会合を行った。

 

1955年に中央政府によって設立された新疆ウイグル自治区は、中国の五つの自治区の一つであり、約1,000万人のウイグル族が居住している。習氏は近年、「中華民族共同体意識」の強化を掲げ、少数民族の国家アイデンティティへの統合や「宗教の中国化」を推進している。9月には民族団結促進法の草案も公表され、共通言語の使用保障や民族間の一体化が制度的に位置づけられた。

 

2か月前(7月)に自治区トップに就任した陳小江氏は、2020年に漢族として初めて国家民族事務委員会主任に任命された人物であり、この理念の推進において重要な役割を担っている。

 

一方、新疆ウイグル自治区は国際社会との摩擦の焦点にもなっている。中国政府は2009年の暴動以降、治安強化と反テロ対策を進めてきたが、欧米諸国はウイグル人に対する強制労働や文化的抑圧を人権侵害として批判している。特に米国は、2021年に国務省が新疆での人権抑圧を「ジェノサイド」と認定し、100万人以上の収容、拷問、強制不妊、宗教・言論の自由の制限が行われていると非難した。2019年以降は、新疆産の衣料、鉱物、電子部品など幅広い産業に制裁を科しており、自治区政府も最近になって初めて制裁の影響を公式に認めた。

 

さらに、米議会ではウイグル人権保護と文化保存を目的とする超党派法案が下院を通過し、現在は上院での審議を待っている。人権団体は、中国の主要鉱物企業が国家主導の強制労働制度を利用していると指摘しており、報道機関は新疆での検閲強化を報じている。 加えて、地域の安全保障環境も緊張を高めている。トランプ米大統領は、アフガニスタンのバグラム空軍基地の再取得を求め、その理由の一つとして中国による新疆での核活動を挙げている。これらの動きは、新疆をめぐる大国間の地政学的対立を一層複雑化させる可能性がある。

[パレスチナ] 

9月22日、国連において「パレスチナ問題の平和的解決と『二国家解決案』の実施に関する国際会議」が開催された。その前日の21日から22日にかけて、英国、フランス、カナダ、オーストラリア、ベルギーを含む計10か国が新たにパレスチナを国家として承認すると発表した。これにより、国連加盟193か国のうち8割以上にあたる157か国がパレスチナを承認したことになる。

 

英国・フランス・カナダは、G7諸国として初めてパレスチナ国家承認に踏み切った。国連安全保障理事会常任理事国では、ロシアと中国が既に承認済みであり、今回の英国とフランスの決定により、未承認の常任理事国は米国のみとなった。国連加盟には安保理の承認が必要であり、米国が、パレスチナが国連加盟国となるための最後の壁となっている。現在パレスチナは「非加盟オブザーバー国家」として国連の会議などに参加している。

 

米国とイスラエルは、一方的な国家承認は「ハマスへの報酬」になるとして反対し、今回の国際会議をボイコットした。イスラエルのネタニヤフ首相は「パレスチナ国家は誕生しない」と強く反発している。日本からは岩屋外相が会議に出席したが、このタイミングでの国家承認には踏み切らなかった。同じくG7のドイツとイタリアも承認を見送った。パレスチナ自治政府のアッバス大統領は会議への出席を希望したものの、開催地である米国のトランプ政権が同大統領を含むパレスチナ高官へのビザ発給を拒否したため、直接の出席はできずオンラインでの参加となった。

 

英国やフランスなどによる国家承認は、直ちにパレスチナ国家の樹立やガザでの停戦に結びつくものではない。しかし、パレスチナ問題に注目が集まることで国際世論を喚起し、米国とイスラエルの国際社会での孤立を際立たせ、イスラエルの占領政策に対する国際的圧力として機能する。また、パレスチナの国際的地位を高め、承認国との間で大使館の開設や条約・貿易協定の締結といった具体的関係強化にもつながる可能性がある。

[米国] 

9月23日、トランプ大統領はSNSで発信し、25日に予定されていた議会民主党指導部との会合には応じない旨を明らかにした。連邦政府の会計年度末が9月30日に迫る中、10月からの新年度予算案が可決できておらず、政府閉鎖につながるリスクが高まっている。9月19日には与党・共和党が多数を占める下院にて、7週間のつなぎ予算案が可決されたが、同日、上院を通過できず、大統領と議会民主党指導部による対話で、膠着(こうちゃく)状態を脱することができるか否かが注目されていた。民主党側は、7月に成立したトランプ減税法によって歳出削減が決まった社会保障関連の補助金等の復活を求めている。

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