2025年9月4日 (木)
[フランス]
来週行われるバイルー首相の信任決議において、バイルー首相の失脚はほぼ確実となっている。左派(191議席)と極右・その同盟勢力(138議席)は、首相を退陣させるのに十分な票数を持っている。そのため、バイルー首相は就任から約10か月で失脚となる可能性が高い。マクロン大統領は、フランスの民主主義制度の安定性を示すため、迅速な対応を迫られることになる。
国会は三つの政治ブロックと十二の会派に分裂し、機能不全に陥っている。マクロン大統領は議会選挙の再実施を避け、代わりに2026年の赤字削減予算の実現に向けて、21か月で5人目となる新首相を任命する方針で、1週間以内に新首相の名前を発表すると予想されている。
候補としては、ダルマナン法務大臣、ロンバード財務大臣、そして2024年12月に首相候補として浮上したルコルヌ国防大臣が挙げられている。新首相には、社会党との協力関係を築くことが不可欠で、ダルマナン氏は中道右派出身ながら社会経済政策では左派寄りの立場を取っており、ロンバード氏は銀行家として穏健左派を自認している。ルコルヌ氏は極右勢力との関係が深く、ルペン氏らと連携して新政府の打倒を目指す姿勢を強めている。
ルペン氏は、EU資金の不正使用で有罪判決を受けたことで、5年間の公職立候補禁止処分を受けている。しかし、彼女の政党「国民集会」は、早期選挙が有利に働く可能性があると判断している。選挙が実施されれば、憲法委員会に対して立候補禁止についての合法性を争う機会が得られ、2027年の大統領選への道が開かれる可能性もある。
問題は、この異例の左派・極右連携が新政権後にも継続されるかである。強硬左派は政府のあらゆる施策を阻止する構えを見せており、極右も現状これに同調する姿勢を見せてはいる。
[南アフリカ(南ア)]
9月1日、世界鉄鋼メーカー大手・アルセロールミタルの南ア子会社AMSAは、従業員の約半数に上る4,000人を9月末までに解雇する予定を労働組合に伝えたと報じられている。国内需要の低迷や生産コストの増加を背景に、AMSAは1月に長鋼(Long steel)製品を生産する国内2工場(ニューキャッスル、フェレニヒング)の閉鎖と3,500人のリストラ計画を発表していた。これに対し、南ア政府は、関連する雇用も含めた地域経済への影響の大きさから同社に対して17億ランド(約136億円)の緊急支援を投入。9月までリストラを行わないよう要請していた。しかし、ASMAの経営状況は上向かず、平鋼製品を生産するヴァンデルビールパーク工場にまでリストラが拡大したと報じられている。
AMSAの前身は国営鉄鋼公社Iscorで、第一次世界大戦後の1928年に操業を開始した歴史を持つ。現在もAMSAは南アで唯一大規模な塩基性酸素転炉(BOF)を用いた粗鋼生産を行う企業だ。年間生産量は約240万トン、南アの全粗鋼生産量の54.9%を占めている(世界鉄鋼協会)。しかし、南ア政府は世界的な「グリーン鉄鋼」の流れと、国内での鉄鋼生産量拡大と鉄スクラップの輸出を抑制する狙いから、2020年にスクラップの国内販売にあたり30%の割引を求める価格選考システム(PPS)を導入。さらに、鉄スクラップ輸出に10%を課税したことで、電炉(EAF)での生産が全体の約半分に迫るほど拡大した。AMSAは政府によるこれらのEAF優遇政策がBOFでの鉄鋼生産の価格競争力を低下させ、市場を歪めていると批判。また電力公社エスコムや、運輸公社トランスネットの不安定な操業と料金上昇が生産コストを上昇させていると、政府の対応に抗議を続けてきた。しかし、政府による目立った救済策やPPS停止処分はとられず、AMSAは工場閉鎖を余儀なくされた形だ。
世界鉄鋼業界によると2024年の全世界の粗鋼生産量は18億8,000万トンで、アフリカは全体の1.5%の2,800万トンに過ぎない。アフリカではエジプトが最大の生産国(EAFが100%)で1,070万トン、二位が南アフリカで470万トンだ。ある民間調査会社はアフリカの人口増加と経済成長に伴って鉄鋼需要は年間3.4%成長し、2034年には5,300万トンに達すると試算している。その一方で、域内の主要鉄鋼生産国である南アフリカでは生産業者にとって予測しがたい市場環境が続いている。
[米国]
9月3日、連邦準備制度理事会(FRB)は、「地区連銀経済報告(ベージュブック)」を公表した。これは、9月16~17日に開催される連邦公開市場委員会(FOMC)の基礎的な資料となる。12地区の大半の経済状況は、前回のベージュブック発表時から、全体の経済活動がほとんど、またはまったく変わらなかった。フィラデルフィアやシカゴ、リッチモンド、ダラスの4地区が緩慢な成長だった。その他の8地区は横ばい圏に収まるものの、低下という表現も見られた。
経済の不確実性と関税が、マイナス要因になっていると言及された。小売業や接客業は、価格に敏感な消費者に苦労しており、製造業は地元の供給網にシフトしたり、コスト削減のため自動化なども利用したりしている。AI関連のデーターセンター建設が、商業用不動産の中で、例外的な強さを見せている一方で、一部の地域からはそれらが使用するエネルギー需要の増加が報告された。
労働市場について、11地区がほとんど、まったく変わらないと報告した一方、ミネアポリスでは労働需要の軟化から、雇用が緩慢に減少したと報告された。7地区から、需要の弱さや不確実性から、企業は採用に躊躇していること、2地区からレイオフが増加していることも報告された。複数の地区から、自然減による人員削減が進んでいると報告された。半数の地区では、移民の労働力減少が建設業に影響を及ぼしていると指摘された。賃金について半数の地区で緩慢な上昇、他の地区で緩やかな上昇だった。
物価ついて、10地区は、緩やかから緩慢な物価上昇になった。2地区では力強い原材料価格野上昇が、緩やかまたは緩慢な販売価格の上昇ペースを上回っている。ほぼすべての地区から、関税に関連する価格上昇が言及された。コスト増を販売価格に転嫁している企業もあれば、転嫁に躊躇(ちゅうちょ)する企業もある。クリーブランドやミネアポリスでは、原材料価格の上昇にもかかわらず、競争から価格低下圧力を受けている企業があった。ただし、大半の地区では、向こう数か月にわたって販売価格を引き上げていくと予想されている。
[ブラジル]
2025年第2四半期のブラジルのGDPは前期比+0.4%となり、第1四半期の+1.3%の成長から鈍化した。四半期ベースでのプラス成長は16期連続となったものの、前年同期比で+2.2%の成長にとどまった(前期は+2.9%)。こうした減速の背景には、農業部門の勢いの鈍化と金融引き締め政策の影響がある。これらが経済活動全体に波及し、民間消費・公共支出・投資・外需といった全般の伸びを抑制した。
供給面では、サービス業が前期比+0.6%の成長を示した一方で、農業は前期比-0.1%とわずかに減少した。農業は第1四半期に好天と生産性向上により前期比+12.3%と大きく伸びていたことを考えると、好調を維持した。産業は鉱業の伸び(+5.4%)により全体で+0.5%と増加したが、製造業と建設業はマイナスとなった。
需要面では、すべての構成要素が減速傾向を示した。民間消費は+0.5%にとどまり、前期の+1.0%から鈍化した。公共消費は-0.6%となり、ルーラ政権発足以降初の減少を記録した。これは予算承認の遅れと財政運営の慎重化が影響したと考えられる。投資は-2.2%となり、6四半期連続の拡大が途絶えた。輸出は+0.7%、輸入は-2.9%となったが、外需の純寄与度は引き続きマイナスとなっている。
米国による関税引き上げの影響は現時点では確認されていないが、下半期の経済にとって懸念材料となる可能性がある。今後も金融引き締めによる資金調達環境の悪化や、財政の不透明感によるリスクプレミアムの上昇などから、成長の鈍化が見込まれている。
一方で、労働市場の逼迫(ひっぱく)や政府による内需支援策が、こうしたマイナス要因を部分的に相殺する可能性がある。労働市場においては、失業率が6月に過去最低の5.8%を記録し、前年同月の6.9%、2012年以降の平均10.1%から大きく低下した。また、給与担保型融資枠は最大4,700万人の正規雇用者に対し低金利で融資を提供し、消費を下支えすると期待されている。また、7月下旬に実施された約640億レアルのプレカトリオ支払い(裁判所命令による政府の支払い)と、住宅支援プログラムの拡充も、短期的な需要を支える要因となる。さらに、第4四半期は前年より営業日が多く、暦上の効果も期待できる。
[米国/メキシコ]
9月3日、ルビオ米国務長官はメキシコを訪れ、シェインバウム大統領への表敬、そしてデ・ラ・フエンテ外務大臣との会談を行った。米墨両国は、国境警備強化などに関する共同声明を発表し、共同記者会見に臨んだ。麻薬カルテルへの対抗措置、不法な武器・薬物の流入阻止、不法越境者対策などについて、米墨両国が協力関係を深化させることを両閣僚は強調した。ベネズエラ近海において米海軍艦艇が麻薬密輸船を攻撃した件について問われたルビオ長官は、違法薬物の流入を断固阻止することをトランプ大統領は決意しており、今後、同様の攻撃を行うことに躊躇しないと発言した。
[ロシア]
9月3日、ロシアの極東ウラジオストクで、国際会議「東方経済フォーラム」が開幕した。プーチン大統領が9月5日午後の全体会合で演説する予定である。質疑応答も予定され、ウクライナや米ロ関係に言及する可能性がある。同会議は、ロシア極東への投資を呼び込む目的で2015年に始まった。10回目の2025年は、「極東:平和と繁栄への協力」をテーマに掲げ、70を超える国・地域からの参加を見込む。ロシア大統領府によると、5日の全体会合にはラオスのソンサイ首相、モンゴルのザンダンシャタル首相らが登壇する予定である。
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