デイリー・アップデート

2025年9月30日 (火)

[EU] 

EUはロシアの脅威や米国の関与縮小を背景に、戦略的自立を目指した防衛協力を加速させており、2025年には「欧州防衛白書」や「ReArm Europe計画」が発表され、2030年までに域内の防衛能力を強化する方針が示された。具体的には、共同調達の推進、防衛産業の統合、AI・量子技術の活用などが挙げられる。ウクライナ支援を通じた実戦的な協力も進んでおり、EU全体としての防衛体制構築が本格化している。

 

この中核を担うのがドイツとフランスであるが、両国間には協力と対立の両面が存在する。フランスは戦略的自立を重視し、米国依存からの脱却を主張する一方、ドイツは最近でこそ方向転換を模索しているが、従来NATOの集団防衛体制を重視し、対米協調路線をとってきていた。特に次世代戦闘機「FCAS」などの共同開発プロジェクトでは、主導権を巡る摩擦が顕在化しており、ドイツが英国やスウェーデンとの連携を模索する動きも見られる。

 

また、防衛予算の規模でも両国の差が広がっている。ドイツは2030年までに1600億ユーロ規模の防衛投資を計画しており、フランスの1000億ユーロを上回る。これにより、ドイツの防衛産業が急速に拡大する一方で、フランスは政治的混乱も抱えており、共同プロジェクトの停滞リスクが懸念される。 今後の見通しとしては、独仏の協調がEU防衛の成否を左右する鍵となっており、両国の関係改善と戦略的連携が焦点となる。

[ボツワナ] 

9月26日、ボツワナ統計局は2025年第二四半期の実質GDP成長率は前年同期比で▲5.3%だと発表した。マイナス成長は6期連続となった。統計局はGDPの減少は、ダイヤモンド取引業(▲46.5%)、鉱業・採石業(▲37.8%)、水道・電力業(▲6.6%)に起因すると説明した。

 

ロシアに次いで世界第二位の天然ダイヤモンド産出国のボツワナは、輸出の約7割、政府収入の約3分の1、GDPの約4分の1をダイヤモンドに依存してきた。しかし、中国と米国等の需要の低迷、世界的な人工ダイヤモンド(カラット数の小さい石)との競争激化がボツワナ経済に深刻な負の影響をもたらしている。

 

国際通貨基金(IMF)は9月26日、2025年のボツワナの実質GDP成長率は通年で▲1.0%に縮小すると予測。2026年以降は回復するとの見通しを示しているが、ダイヤモンド以外の産業多角化が急務となっている。ボツワナは、南アフリカ発祥で現在はロンドンに拠点を置くデビアス社との合弁会社・デブスワナ(デビアスとボツワナ政府が50%ずつ株式を所有)を通じてデビアス社のダイヤモンド販売全体の7割を供給している。またボツワナ政府はデビアス社の株式の15%を所有している。過去60年にわたりデビアス社との緊密なパートナーシップ関係により安定的にダイヤモンド収入を国庫に流入させ、財政黒字を維持し、人口約250万の国民の福祉に還元したアフリカでも稀な国だ。ダイヤモンド収入を背景とした財政の安定性から、大手格付け会社Moody'sはボツワナの信用格付け(長期外貨建て)に「A3」格を与えており、アフリカ最高水準を維持している。

 

しかし、ダイヤモンド生産・輸出の急減がモノカルチャー経済に依存してきたボツワナ経済に暗い影を落としている。これまでアフリカ諸国としては低い公的債務比率となる対GDP比10%台を維持してきたが、歳入の大幅減により2024年には対GDP比で31.5%に急上昇した。比較的貯蓄が多い国のため直ちに信用不安には陥らないものの、今後も天然ダイヤモンド価格の低迷が続く見通しを反映して、S&Pグローバルは9月12日、同国の信用格付け(長期・外貨建て)を「BBB+」から「BBB」に引き下げ、見通しを「ネガティブ」とするなど格下げに動いている。ボツワナ政府は財政赤字を補填するためにアフリカ開発銀行や、石油輸出国機構(OPEC)などから低利子の融資の調達を急いでいる状況だ。

 

また、これまで長期パートナーシップ契約を結んでいたデビアス側にも大きな環境変化が起きている。デビアスの85%の株式を所有する資源大手・アングロ・アメリカンが、BHPグループからの買収提案を受けて、赤字が続いてきたデビアスの株式放出に動いている。ボツワナ政府はデビアス株の買取(過半出資)に意欲を示しているが、10億ドル程度の費用が必要とみられ、ボツワナの外貨準備高の約3分の1の水準となるもよう。ボツワナとしては世界の天然ダイヤモンド市場のコントロールを強めたい意図があるものの、今後、世界の天然ダイヤモンド価格の需要の回復がはっきりと見通せない中、さらに財政赤字を悪化させうる「賭け」とも言える勝負に出るか、注目が集まる。

[米国/イスラエル/パレスチナ] 

9月29日、米国を訪問中のイスラエルのネタニヤフ首相はホワイトハウスを訪れ、トランプ米大統領と会談した。両者のホワイトハウスでの会談は、トランプ氏が2025年1月に大統領に就任して以来、すでに4回目となる。会談後の記者会見でトランプ米大統領は、ガザ紛争を終結させるための「20項目の計画」を発表し、イスラエルのネタニヤフ首相に加え、サウジアラビア(サウジ)の国王、カタールの首長、UAE大統領などアラブ諸国のリーダーも同計画に合意していると明らかにした。サウジを含む8か国のアラブ・イスラム諸国は、外相による共同声明を発出し、この計画への支持を表明している。

 

計画によれば、イスラエルが公式に受諾すれば即時停戦が発効し、72時間以内にガザに拘束されている人質は、生存者・遺体を問わず全員が返還される。その見返りとして、イスラエルは国内のパレスチナ人終身刑受刑者250人と、2023年10月7日のハマスの奇襲以降に拘束されたガザ住民1700人を釈放する。また、ガザへの支援物資搬入は、国連や国際機関によって双方からの干渉を受けず全面的に再開される。さらに、ガザ統治のために技術的で非政治的な「パレスチナ委員会」が設立され、新設される「平和委員会」の監督下に置かれる予定である。平和委員会のトップはトランプ米大統領が務め、ブレア元英首相らがメンバーとして参加することになっている。また計画には、イスラエルはガザを占領も併合もしないこと、ガザ住民の強制退去を行わないことが明記されている。

 

現時点では、この案は紛争のもう一方の当事者であるハマスによる精査と回答待ちであり、ハマスが受け入れるかどうかが焦点となっている。一方で、ネタニヤフ首相が合意したとしても、同氏の連立政権に参加している極右政党がこれらの条項を受け入れるかは不透明である。また、20項目の計画には基準やスケジュールが不明確な部分が多く、解釈が曖昧な条項も含まれているため、合意を妨害する余地を残しているのも事実である。最後に、この計画は将来のパレスチナ国家の可能性について触れてはいるものの、国家樹立を約束する内容ではない点が重要である。

[金] 

金の値上がりが続いている。政府債務やインフレ、地政学的リスクに対する懸念、米ドル離れなどさまざまな理由がある。最近では米国の追加利下げ期待や政府機関閉鎖リスク、株式や社債の変調リスクなどに対するヘッジを求める西側投資家の金ETF投資も増えており、金だけでなく銀やプラチナなども高騰している。

 

ブルームバーグによると、米国の金準備は簿価が1トロイオンス42.22ドル、評価額は約110億ドルだが、最近の値上がりにより、1トロイオンス3,800ドル超の時価評価ベースでは1兆ドルを超えたという。

 

最近はインターネット上で、世界の中央銀行の金保有額が米国債を上回ったことを示すチャートが出回っている。英フィナンシャルタイムズ紙は9月9日付の記事でこれを検証している。IMF(国際通貨基金)が公表する外貨準備のデータはあくまで通貨配分であり、世界のドル準備6.7兆ドル(外貨準備に占める割合は58%)のすべてが米国債というわけではない。米国財務省によると、外国人は9.1兆ドルの米国債を保有しており、うち3兆9,200億ドルが外国の中央銀行による保有と推測される。6月末時点で金準備は推定3兆8,600ドルで、「まだ金準備は米国債を超えていない」ことになるが、その後の金価格高騰を踏まえると、おそらく現在は金準備の時価評価額の方が米国債より多くなる。しかし、これは価格変動によるところも大きく、自己申告ベースの外貨準備・金準備高の正確性の問題もあることから、「米国債から金への根本的かつ劇的なシフト」と捉えるよりは割り引いて考えるべきだとしている。

[コロンビア/米国] 

9月26日、米国務省はコロンビアのグスタボ・ペトロ大統領に対する入国査証(ビザ)を取り消すと発表した。ペトロ大統領は国連総会に出席するため訪米していたが、国連本部前の路上で演説し、イスラエルによるガザ攻撃を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と非難し、米国の軍事支援を強く批判した。これに対し、米国務省はペトロ氏の発言を「無謀かつ扇動的な行動」と位置づけ、外交的な対応としてビザの取り消しに踏み切った。

 

ペトロ氏はSNS(X)上で「米国が国際法を尊重していない証拠だ」と反論し、「私は欧州市民でもあるため、米国のビザは必要ない」と強く反発している。この措置は、米国とコロンビアの外交関係に深刻な亀裂を生む可能性がある。両国は長年、安全保障や経済協力の分野で緊密な関係を築いてきたが、トランプ大統領が復帰して以降、国外追放、貿易、麻薬対策、ウリベ前大統領に関する訴訟をめぐっての両国首脳間での対立が続いている。

 

今回のビザ取り消しは、米国が外交的圧力の手段として査証制度を利用していることへの懸念を呼び起こしている。コロンビア外務省は「表現の自由を侵害し、国連の理念に反する」として米国を非難した。米国の今回の対応は、中南米の左派政権の間で反米的な連帯を強める可能性がある。

 

米国との関係が冷却化すれば、コロンビアの対米貿易や安全保障協力にも悪影響が及ぶが、現時点で米国の対応は限定的であり、関税の引き上げや本格的な経済制裁には至っていない。国務省はペトロ氏個人を名指しで批判しているが、ブラジルやインドと異なり、関税引き上げなど更なる措置は回避されている。これは、来年のコロンビア大統領選で右派野党候補が勝利する可能性を米国が認識しており、過度な介入を避けているためと考えられる。

 

ただし、ペトロ大統領が自身の発言を撤回する可能性は低く、ビザ取り消し以降もSNS上で活発に投稿を続けている。任期満了まで1年を切り、憲法上大統領再選ができない中で、政権運営はより米国に攻撃的な姿勢を強めていることから、ペトロ大統領の今後の出方次第では、米国が制裁を科す可能性も残る。

 

中期的には、支持率の低迷と安全保障への国民の不安が、2026年5月の大統領選で野党に有利に働くと予測されている。野党には数十人の候補者が存在し、その政治的立場は中道左派から極右まで幅広い。しかし、ペトロ政権下での混乱を経て、米国との関係を見直す必要性については野党内で概ね一致しており、来年野党が勝利すれば、米国との関係は再構築される見通しとなっている。

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