2025年9月19日 (金)
[フランス]
フランスでは、セバスチャン・ルコルヌ氏が新首相に就任したばかりであるが、政府の予算引き締め政策に対して50万人以上が抗議デモを行い、マクロン大統領への政治的圧力が高まっている。こうした混乱の中、極右政党「国民連合(RN)」が支持を拡大している。RNはジョルダン・バルデラ党首のもとで支持率を伸ばしており、最新の世論調査では34%に達している。これは、左派連合「新人民戦線(NFP)」の24%、マクロン大統領率いる中道連合の14%を大きく上回る数字である。特にNFP内部で中道派と急進左派の対立が深まれば、RNの支持率はさらに上昇する可能性がある。
個人の支持率においても、バルデラ氏は43%の有権者から「次期首相にふさわしい」と評価されており、政治的影響力を強めている。一方、RNの議会での勢力も拡大しており、2024年の選挙では議席数を89から123に増やした。過半数に必要な289議席には届いていないが、2026年の地方選挙でも勢いを維持するとみられている。
RNの中心人物であるマリーヌ・ルペン氏は、EU資金の不正流用により有罪判決を受け、政治活動を5年間禁じられている。控訴審の判決は2026年6月から7月にかけて出る見込みであり、控訴が棄却された場合、2027年の大統領選にはバルデラ氏がRNの候補となる見通しである。仮にルペン氏が出馬できた場合には、バルデラ氏が首相候補となる可能性が高い。
ただし、RNが大統領選で勝利するには課題もある。決選投票では、中道・左派連合が結集してRN候補を阻止しようとする動きが予想される。それでも、バルデラ氏が経済政策において中道層や企業の支持を獲得できれば、RNがこれまで以上に善戦する可能性もある。
[米国/イスラエル/パレスチナ]
9月18日、国連安全保障理事会は、ガザでの停戦を求める決議案を採決したが、米国が拒否権を行使し否決された。決議案は非常任理事国10か国が共同で提出したもので、米国を除く14か国が賛成票を投じた。米国が安保理においてガザ停戦決議案に拒否権を行使するのは、過去2年間に及ぶガザ紛争を巡って6回目である。決議案は、ガザにおける即時・無条件かつ恒久的な停戦、ハマスに捕らえられている人質・捕虜の解放、そしてガザへの人道支援に対する制限の解除を求める内容であった。
採決に出席した米国のオルタガス中東担当副特使は、「決議はハマスを非難せず、イスラエルの自衛権を認めず、ハマスに有利な虚偽の主張を誤って正当化している」と述べ、反対理由を説明した。一方、デンマークのラッセン国連大使は採決前に「ガザ地区では飢饉が確認されている。予測でも宣言でもなく、確認された事実だ」と強調したが、オルタガス氏はガザで飢餓は起きていないと主張した。
パレスチナのマンスール国連大使は米国の拒否権行使に「深い遺憾」を表明し、「安保理が、ジェノサイドの脅威にさらされた民間人を守るという正当な役割を果たすことを妨げた」と強く批判した。決議を提出した国の一つであるアルジェリアも、安保理が再びガザ問題で行動できなかったことに落胆を示し、パレスチナ人に謝罪した。一方、イスラエルのダノン国連大使は、拒否権を行使した米国に謝意を示した。
国連創設80周年を記念する国連総会でパレスチナを国家承認する機運が高まる中、今回の米国の拒否権行使は、米国とイスラエルが国際社会において孤立している現状を改めて浮き彫りにした。
[英国]
9月18日、イングランド銀行(中銀)は政策金利(Bank rate)を4.0%に据え置くことを決定した。据え置きは2会合ぶり。全9人の委員のうち賛成7、反対2の決だった。ディングラ委員とテイラー委員は0.25%利下げを主張して、据え置きに反対した。前回の会合では、4人が0.25%利下げ、4人が据え置き、1人が0.5%利下げと意見が割れて、異例となる2回目の投票を実施していたことに比べると、今回の会合では意見が集約されていた。
また、今回の会合では、量的引き締め(QT)の見直しが議論された。QTのペースをこれまでの年間1,000億ポンドから700億ポンドに縮小することが決定された。これも賛成7、反対2での決定だった。ピル委員は1,000億ポンドペースの維持を、マン委員は620億ポンドへの減額を主張した。中銀は2022年2月からQTを始めている。その削減対象は、2009年から2021年にかけて買い入れた8,750億ポンドの国債。償還にともなう自然減に加えて、売却を通じて、保有国債を縮小させている。なお、QTペースの減速は売却開始から初めてのこと。
中銀の見通しによると、物価上昇率は4月(4%)をピークにして、2027年Q2までに目標の2%まで縮小すると予想されている。ベイリー総裁は、「物価上昇率は山場を越えたわけではなく、今後の引き下げは段階かつ慎重に行う必要がある」と述べるなど、慎重な姿勢を崩していない。実際、声明文でも、利下げを「段階的かつ慎重に(a gradual and careful approach)」進める方針が示されており、中期的な物価上昇に対する上振れリスクは「依然として顕著(prominent)」とも指摘されている。
[アルゼンチン]
中央銀行は、ペソの急落を食い止めるために市場に直接介入している。通貨当局は、ペソが為替レートの下限である約1,475ペソまで下落したことを受け、9月17日に5300万ドルを売却した。この介入は、国際通貨基金(IMF)との200億ドル規模の融資契約に基づき、2025年4月にミレイ大統領が新たに導入したバンド制を維持するためのもの。
同日、国家統計局が発表したデータによれば、アルゼンチン経済は2025年第2四半期に前期比で0.1%縮小した。これは、長期的な経済危機からの回復が再び停滞したことを示している。一方、ミレイ政権は政治的な打撃にも直面している。ブエノスアイレス州で行われた地方選挙では、与党が大敗を喫した。さらに、首席補佐官である妹カリーナ氏が関与したとされる汚職疑惑も政権への信頼を揺るがしている。
こうした政治的不安定さは市場に悪影響を及ぼしており、ペソは8月に約12%下落した。特に、中央銀行が国債の借換えを適切に管理できなかったことが、7月以降の下落を加速させており7月初めからは約20%下落している。
金利引き上げや銀行準備率の強化など、ペソ安を抑えるためのほかの政策は限定的な効果しか示していない。経済活動の停滞も続いており、10月に予定されている中間選挙に向けて、政権への支持がさらに揺らぐ可能性がある。
政府は為替制度を維持するための手段をほぼ使い果たしており、少なくとも選挙までは袋小路に陥っている。ペソを支えるために外貨準備を大量に売却することが、アルゼンチンを国際資本市場に復帰させ、IMF依存から脱却するというミレイ大統領の長期的な戦略に悪影響を及ぼす可能性もある。持続的な売り圧力により、短期的には為替幅の拡大を余儀なくされる可能性もある。債券市場でも懸念が広がっており、来年償還期限を迎える数十億ドル規模のソブリン債務の返済への懸念から、借入コストが上昇している。現在、アルゼンチンのドル建て国債の利回りと米国債との利回り差は、9月7日の州選挙以降2.6pt拡大し、現在は11.7%に達している。
政府は、ミレイ氏の緊縮財政と自由市場改革への支持を得るため、議会を支配する野党との交渉を開始したが、下院は病院と大学への資金提供を強化する二つの法案に対するミレイ氏の拒否権を、3分の2の多数で覆した。これにより、政権は立法面でも苦境に立たされている。
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