デイリー・アップデート

2025年9月11日 (木)

[ポーランド/ロシア] 

9月10日、ポーランド軍と北大西洋条約機構(NATO)軍は、ウクライナ攻撃に際してポーランドに侵入したロシアのドローン(無人機)を撃墜したと明らかにした。NATOの領空内でロシアのドローンが撃墜されるのは初めてという。ポーランドのトゥスク首相は、領空を侵犯したドローンが19件あり、大部分がロシアの同国ベラルーシから侵入したと明らかにした。3機を撃墜したと述べ、「大規模な挑発行為だ」と非難し、NATOに緊急の協議を要請した。ポーランドの要請を受けて、北大西洋条約第4条に基づく加盟国の緊急協議を開催したが、情報筋によると、NATOは今回、ポーランド領内へのドローン侵入を攻撃として扱っていないとロイター通信(英通信社)が報じた。ポーランド政府は無人機7機とミサイル1発の破片が見つかったと公表し、建物1棟と車1台に被害が出たとした。

 

一方、9月10日、ロシア国防省はウクライナ西部の軍事産業施設を無人機などで攻撃したと発表した。ポーランド領内を攻撃する計画はなかったとし、無人機がポーランド国境を越えたとされる点については協議する用意があるとした。

[イスラエル/カタール] 

9月9日、イスラエルがカタールの首都ドーハで行われていたハマス指導層による会合の場を空爆したことを受け、世界各国からイスラエルへの批判が相次いだ。これに対し翌10日には、カタールとの連帯を示すため、周辺諸国の首脳らが相次いでカタールを訪問した。訪問者にはUAEのムハンマド大統領やクウェート、ヨルダンの皇太子らが含まれ、さらに11日にはサウジアラビアのムハンマド皇太子も訪問する予定である。

 

9月9日、カタールのムハンマド首相兼外相は記者会見を開き、イスラエルによる攻撃を「国家テロリズム」と非難し、ネタニヤフ首相が地域の安全保障を脅かしていると指摘した。また、国務大臣を委員長とする委員会を設置し、今回の攻撃に対する必要な措置を講じる方針を表明した。さらに、湾岸地域全体が危機にさらされているとして、国際法に違反する野蛮な行為への地域的な報復を呼びかけた。

 

9月10日、ネタニヤフ首相は「カタール、そしてテロリストを保護するすべての国々に言う。彼らを追放するか、裁判にかけるかだ。そうしなければ、我々がそうする」と述べ、カタールへのさらなる攻撃を示唆した。これに対し、カタールの首相は「カタールにハマスの事務所が存在するのは米国による要請によるものであり、イスラエルも十分承知している。むしろネタニヤフ首相こそ国際刑事裁判所から逮捕状を出されている人物であり、そのような人物が裁判について世界に講釈を垂れる資格はない」と強く反論した。

[米国/日本] 

米労働省によると、8月の生産者物価指数(PPI)は前月比▲0.1%と、7月(+0.7%)から予想外に下落し、市場予想(+0.3%)を下回った。下落は4月以来、4か月ぶりだった。

 

内訳を見ると、財価格(+0.1%)が引き続き上昇した一方で、サービス(▲0.2%)が下落した。財では食品が+0.1%、7月(+1.4%)の急上昇から減速し、エネルギー(▲0.4%)は3か月ぶりに低下に転じた。食品・エネルギーを除く財(+0.3%)は7月(+0.4%)から小幅に減速したものの、年初から上昇ペースは変わっていない。

 

それに対して、サービスでは、卸売・小売の利益に相当する貿易サービスのマージン(▲1.7%)が2か月ぶりに減少したことが目立った。関税の影響などから、貿易サービスのマージンが低下したと見られている。7月(+1.0%)に上昇していた反動もあるものの、年初からプラス・マイナスを繰り返しており、変動が大きい上、伸びていない。

 

なお、生産物価指数の前年同月比の上昇率は+2.6%となり、7月(+3.1%)から縮小、市場予想(+3.3%)を下回った。 また、日本銀行によると、国内企業物価指数(CGPI)は前年同月比+2.7%だった。上昇率は7月(+2.5%)から拡大した。前月比は▲0.2%であり、2か月ぶりのマイナスだった。

 

北米向け自動車輸出物価は、円ベースで▲20.2%となり、7月(▲24.7%)からマイナス幅を縮小させた一方で、契約通貨ベースでは、▲20.9%となり、7月(▲18.8%)からマイナス幅を拡大させた。引き続き、大幅な値引きが継続しているようだ。

[ブラジル] 

最高裁判所の5人の判事のうちの一人、フックス判事がボルソナロ元大統領のクーデター未遂の容疑に対して、最高裁判所(STF)は元大統領に対する容疑を裁く適切な場ではないと主張した。また、弁護側には証拠を十分に検討する時間が与えられていないと述べた。フックス氏は、以前にもボルソナロ氏に対する罰則の厳しさなどに関してほかの判事と異なる見解を示していたため、今回も多数派と異なる判断を下す可能性が高いと見られていたものの、有罪判決そのものを否定するとの意見は少数であった。

 

しかし、この反対票が判決の結果に大きな影響を与えることはないとみられる。これまでモラエス判事を含む2人が有罪に賛成票を表明しているが、残る2人の判事も有罪判決に賛成する見込みであり、最終的な票数は4対1となり、ボルソナロ氏は懲役30年近い判決を受ける可能性が高いとされている。さらに、STFは議会が承認した恩赦の可能性についても違憲と判断すべきとの考えが優勢とみられる。

 

このような状況下で、現状ではボルソナロ氏は有罪となり、議会が恩赦を承認する余地はほとんどなく、米国がブラジルに対して新たな制裁を科す可能性も高い。

 

それでも、フックス氏が反対票を投じたことは、将来的な恩赦の可能性を示唆するものであり、ボルソナロ氏の支持者にとっては勝利と受け止められている。判事間の意見の相違が明らかになったことで、将来の政治的決定に希望をつなぐ材料となっている。焦点は、2025年中に議会が恩赦を与えるかどうかではなく、次期大統領がボルソナロ氏への恩赦を決定した場合(右派候補が勝利)に、STFが覆すことができるかどうかに移っている。フックス氏の判断は、法廷内には恩赦を支持する少数派が存在することを示している。

 

このような見通しは、右派の候補者の一人フレイタス氏を後押しする材料となる。フレイタス氏は大統領候補として、ボルソナロ氏の家族よりも広い支持を得られる可能性があり、裁判所との交渉や恩赦の実現に向けた調整も可能とみられている。ボルソナロ元大統領が誰を推すかは依然として不透明であるものの、フレイタス氏が最高裁判所を公然と批判し、議会に恩赦法案の可決を求めたことは、前大統領の支持を得る可能性を高める要素となっている。

[EU] 

EUは、今後数年で年金基金をインフラやスタートアップ企業への投資に活用し、経済成長と競争力の強化を図ろうとしている。しかし、現行の規制や制度がその実現を妨げている。ユーロ圏の年金および保険基金の資産は増加傾向にあり、民間年金制度の普及や拠出額の増加、投資収益の改善により、2024年末には年金基金が3.6兆ユーロ、保険基金が2025年初に8.9兆ユーロに達した。

 

一方、米国では年金基金がベンチャーキャピタル(VC)やプライベート・エクイティ(PE)といった高リスク資産への投資に積極的で、GDP比でVC・PE資産が17%に達しているのに対し、EUでは8%にとどまる。米国のVC資金の7割以上が機関投資家から供給されているのに対し、EUでは3割程度で、主に国営銀行が担っている。このため、欧州のVCファンドは規模が小さく、スタートアップの成長や再投資が遅れ、イノベーションの商業化や国際展開が進みにくい。実際、スタートアップの数では欧州が米国を上回るが、ユニコーン企業の数では大きな差がある。

 

欧州では長年、確定給付型年金が主流だったが、近年は運用成績に応じて給付額が変動する確定拠出型制度への移行が進んでいる。EUの政策立案者は、米国やオーストラリアのように年金基金が高リスク資産に投資することで、将来の年金額の増加と経済成長の加速を期待している。

 

しかし、欧州が米国並みの投資環境を実現するには課題が多い。金融市場の分断、公的年金制度の充実による民間年金の遅れ、政府債務の増加による債券偏重、そしてリスク回避を促す会計基準が障壁となっている。特に時価評価制度や高い資本要件は、PEなどの非伝統的資産への投資を困難にしている。

[南アフリカ共和国(南ア)/米国/中国] 

9月10日、南ア統計庁(Stats SA)は2025年第2四半期(4~6月)の実質GDP成長率は0.8%だったと発表した(前期比、季節調整済み)。前期の+0.1%から増加し、三期連続のプラス成長となった。

 

産業別では、製造業が前期の▲2.0%から、+1.8%とプラス成長に転じ、最大のプラスの寄与度(0.2%ポイント)となった。なかでも石油・化学製品、自動車および自動車部品部門の成長が加速した。同じく鉱業も白金族(プラチナ等)、金、クロム鉱の生産が増加し、前期の▲4.1%から、+3.7%成長に回復し、GDP全体のプラス成長を下支えした。これらの産業の成長は、第2四半期期間中に電力公社エスコムによる電力供給が比較的安定していたことを反映している。また、農業も好天に恵まれた影響で+2.5%となり、三期連続の成長となった。他方で運輸業は▲0.8%のマイナス成長で最大のマイナスの寄与度となった。経営不振が続き、今や電力以上に南ア経済のボトルネックとなっている運輸公社トランスネットによる貨物輸送の停滞を反映しているとみられる。

 

需要面では、GDPの7割弱を占める個人消費が堅調で+0.8%となった。一方で、地政学的リスクの高まりや、4月に発表された米国の相互関税(南アは30%)を受けての投資控えの影響か、総固定資本形成は▲1.4%だった。統計捕捉期間中は米国の相互関税が一時停止されていたものの、特に「駆け込み輸出」は目立って起きず、逆に輸出は▲3.2%と減少した。

 

今回発表された0.8%成長は過去2年で最も高い成長率である一方で、8月から適用が開始された米国の相互関税が南アの経済成長に暗い影を落としている。国際通貨基金(IMF)は7月に南アの2025年通年の実質GDP成長率を1.0%との予測を示したが、市場では、主に南アの自動車産業に大きな影響を与える相互関税の影響により、通年の成長率は0.7~0.8%に落ち込むとの見方が強い。

 

南ア政府は米国による「一方的な(Unilateral)」関税の影響を緩和すべく、国内企業向けの経済支援パッケージを設けたほか(2025年8月5日デイリー・アップデート参照)、米国との貿易交渉を諦めない姿勢を示し(2025年8月8日デイリー・アップデート参照)、相互関税発動後の8月12日に米通商代表部(USTR)に「改訂貿易案」を提出するなどの対応を取っている。9月10日にシリル・ラマポーザ大統領は議会演説で「現在、米国に通商交渉団を派遣している」と明言。9月下旬にニューヨークで開催される国連総会に自身が出席する前に、実務レベルで米国との貿易交渉を進めておきたい意図があるとみられる。

 

他方で、これまでのトランプ大統領による南アへの個別攻撃ともとれる外交上の圧力下では、相互関税の大幅な引き下げの実現は困難とみられ、南ア政府は中国や、アジア、中東など代替市場への参入拡大を図ろうとしている。8月7日、政府は南アにとって最大の貿易相手国である中国とのさらなる貿易・投資の拡大を目指す「南ア・中国貿易投資パッケージ(2025~2029)」を発表。また、9月10日にズコ・ゴドゥリンピ貿易産業競争副大臣が議会で「中国企業と電気自動車の国内生産に向けて協議を行っている」と発言するなど、現実路線として中国との経済関係をさらに強化するような動きがみられる。

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