デイリー・アップデート

2025年9月16日 (火)

[金] 

金価格は史上最高値更新を続けている。NY金先物は最も取引が多い2025年12月限ベースで1トロイオンス3,700ドルを超え、スポット価格もこの大台に迫っている。名目ベースでは高値更新を繰り返しているが、インフレ調整後の実質ベースでもついに1980年に記録した高値を超えた。価格高騰により宝飾品などの現物需要には陰りがみられるが、中央銀行が外貨準備の一部を金にシフトする動きが続き、金価格高騰とも相まって外貨準備に占める金比率が高まっている。安全資産を求める投資家の需要も根強く、金ETF(上場投資信託)の残高も急速に増加している。

 

9月12日、中国人民銀行は金や金製品の輸出入ライセンス制度を簡素化する案について10月13日まで意見公募を行う通知を発表した。従来は輸出入の都度、1件ごとに許可証を取得する「一批―証」の必要があったが、今後は「非一批一証」の申請を可能にし、規定数量を超えない限り同じライセンスを複数の通関手続きに使用できるようにする。通常、このようなライセンスの有効期限は6か月だが、9か月に延長し、各許可証の使用回数制限を撤廃する。受け入れ可能な港湾は北京・上海・広州など15か所とする。中国の金輸入量は人民銀行が管理しており、ライセンス制度の簡素化イコール金輸入量増加とは限らないが、手続き簡素化により国境を超える金取引を促進する。

[ドイツ] 

9月14日、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が地方選挙で大きな躍進を遂げた。これは、メルツ首相が就任後、初の選挙だったが、西部の産業地域において極右の影響力が拡大していることを示す結果となった。

 

暫定結果によれば、ドイツ最大の人口を抱えるノルトライン・ヴェストファーレン州でAfDは約14.5%の得票率を獲得した。これは2020年の5%から大幅に増加したものである。2025年2月の総選挙で記録した全国レベルでの結果16.8%よりは低かったものの、従来極右が強かった旧東ドイツだけでなく、西ドイツ地域での地盤強化を示している。

 

AfDの支持拡大は、移民の流入や産業の衰退に直面するルール地方で顕著で、労働者階級の有権者からの支持を集めている。 一方、連立政権を構成する中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)と中道左派の社会民主党(SPD)は、経済停滞や低支持率に苦しんでいる。SPDは今回の選挙で約22%の得票率を得たが、これは2020年より2pt低く、戦後最も弱い結果となった。緑の党も6.5pt下落し、13.5%にとどまった。

 

かつてSPDの強固な地盤であったゲルゼンキルヒェンでは、AfDの市長候補が約30%の票を獲得し、SPD候補との決選投票に進出した。また、製鉄大手ティッセンクルップの本拠地であるデュイスブルクでは、AfDが約20%の票を得た。

 

CDUは依然として33%の得票率で州内トップを維持しており、2020年より1pt下がったものの、一定の支持を保っている。SPDの伝統的な支持基盤である産業地域におけるAfDの台頭は、移民政策や福祉制度に関する議論を政権に突きつけている。メルツ首相は、債務ブレーキ(政府の財政赤字を制限するための憲法上のルール)の緩和や防衛・インフラへの1兆ユーロ規模の支出計画を打ち出しているが、国民の懐疑的な姿勢に直面している。首相は「改革の秋」を掲げ、定年後も働ける制度の整備を通じて福祉と年金制度の見直しを進めると約束している。しかし、連立政権内の緊張やSPDの選挙結果の低迷が、こうした改革の実現を困難にする可能性がある。

[ブラジル] 

トランプ政権下で米国との貿易摩擦が激化する中、ブラジルは米国市場への依存を減らし、他国との貿易関係強化を模索している。ルーラ政権は複数の貿易協定の推進に積極的であり、ヨーロッパ、中国、中東、メキシコ、カナダ、ASEAN諸国との連携を進めている。これらの取り組みは既存協定の拡張やメルコスールを通じた新たな枠組みを活用する形で展開されている。

 

中国との関係では、自由貿易協定は未締結ながらも、農産物輸出や投資面での協力が進展している。中国は米国への依存を減らす中で、ブラジル産大豆などの輸入を増やしている。欧州では、メルコスールがEFTAおよびEUとの協定署名に向けて動いており、EU協定が発効すれば、ブラジルの輸出は年間5%増加し、GDPも2040年までに0.3?0.5%成長すると予測されている。

 

インドとの関係も強化されており、両国は既存のインド・メルコスール協定の製品範囲拡大に向けて協力している。ルーラ大統領は2026年の訪印を予定している。南北アメリカでは、メキシコとカナダがブラジルとの貿易拡大に関心を示しており、特にメキシコとの協定拡大は早期実現の可能性がある。

 

さらに、ASEANとの関係強化も進行中であり、ルーラ大統領は2025年の首脳会議に出席予定するなど、農産物輸出の基盤構築を目指している。これらの動きは、ブラジルの貿易の多角化と外交的影響力の拡大を示している。

[ロシア] 

9月12~14日、ロシア国内における州の知事や首長などを選ぶ統一地方選挙が行われ、直接投票による20の知事・首長選で政権与党「統一ロシア」が推薦する候補の全勝が確実となった。北西部のネネツ自治区では、知事が地元の代議員議会によって選出され、2025年3月にプーチン大統領が推薦する候補が当選した。プーチン政権は今回の選挙で「圧勝」を誇示し、長期化するウクライナ侵略を支える政権与党への信任を訴えた。中央選挙管理委員会のパムフィロワ委員長によると、西部ベルゴロド州とブリャンスク州では選挙期間中に計4か所の投票所にウクライナ側の無人機攻撃があった。今回の統一地方選では地方議会選や市長選など各種選挙にウクライナへの「特別軍事作戦」に参加した1,616人が立候補し、「統一ロシア」の幹部は、このうち党から立候補した少なくとも837人が当選したと明らかにした。

 

2026年9月にロシアは下院選を控える。プーチン政権が継続するウクライナ侵略の動向が国政選挙に影響を与える可能性があり、野党の動向を含めて関心を集めそうだ。

[米国/中国] 

9月14~15日、スペイン・マドリードにおいて米中通商協議が開催され、中国側代表の何立峰副首相と米国のベッセント財務長官、グリアUSTR(米通商代表部)代表が会談した。

 

会談後、ベッセント財務長官は中国企業が運営・所有する動画投稿アプリTikTokの扱いについて、枠組み合意に達したと発表した。これは、TikTokの米国企業への売却に中国側が同意したことを意味するとみられるが、特に問題視されているアルゴリズムの取り扱いについては明らかにされていない。中国側がこの技術の輸出を許可する可能性は低く、9月19日に予定されているトランプ大統領と習近平国家主席の電話会談後の発表が注目される。

 

また、米主要メディアがTikTok売却合意を集中的に報じている一方、中国側は、米国による対中投資制限の緩和や協力促進を含む包括的な合意であったことを強調している。中国側は、米国に対して関連制限措置の解除を求めており、米中通商協議に参加した李成鋼・商務部次官は会談後、米国が投資障壁の緩和に前向きな姿勢を示したと述べている。

 

したがって、TikTok問題における中国側の譲歩は、米国による投資制限緩和という見返りを伴う「包括的枠組み合意」である可能性が大きい。トランプ大統領の訪中に向けた布石として、中国がTikTok問題で米国側に譲歩したとの見方もあるが、中国は米中通商協議の最中に、米半導体企業エヌビディアが独占禁止法に違反していることが判明したと発表し、米国に一方的な譲歩をする意思がないことを示している。

[カタール] 

9月15日、カタールの首都ドーハでアラブ・イスラム諸国による緊急首脳会議が開催された。会議では、9月9日のイスラエルによるカタール攻撃を強く非難し、カタールへの全面的な連帯を表明した。首脳会議に先立ち開かれた外相会議で、カタールのムハンマド首相兼外相は「国際社会は二重基準を放棄し、イスラエルが犯したすべての犯罪について責任を追及すべき時だ」と述べ、さらに今回の攻撃に対して「厳しく、かつ断固とした措置で対応すべき」と強調した。

 

この緊急会議は、9月9日にトランプ政権が提示した最新のガザ停戦案を協議するためドーハに集まっていたハマス指導者らを、イスラエルが空爆したことを受け、カタールへの連帯を示す目的で開催されたものである。カタールは米国の非NATO主要同盟国に位置付けられており、米トランプ政権も今回のイスラエルによるカタール領土への攻撃に不満を表明している。

 

9月15日にはトランプ米大統領が「カタールは極めて重要な同盟国であり、イスラエルは攻撃について慎重でなければならない」と発言した。さらに同日、ルビオ米国務長官がイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相と会談を行った。

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