デイリー・アップデート

2025年9月10日 (水)

[イスラエル/カタール] 

9月9日午後3時頃(現地時間)、イスラエル軍がカタールの首都ドーハに対して空爆を実施した。標的は停戦案を協議するために集まっていたハマス指導部とされる。攻撃対象となったのは、外国大使館や学校、住宅が集中し、多くの外国人が居住する高級地区ウェストベイであった。この空爆で、ハマスの上級指導者ハイヤ氏やメシャアール氏らが狙われたが、指導部は無事であった。一方、ハイヤ氏の側近や息子を含む関係者5人が死亡し、カタールの治安部隊員1人が死亡、複数の部隊員が負傷した。

 

イスラエルは、今回の攻撃について米国に事前通知し、さらに米国はカタールに事前に通知したとしているが、カタール政府はこれを否定し、「通知を受けたのは攻撃後だった」と発表した。トランプ大統領は自身のSNSで「この攻撃はネタニヤフ首相の決定であり、私の決定ではない」と述べ、「カタールへの一方的な爆撃はイスラエルや米国の目標達成にはつながらない」と投稿した。また、「残念ながら(カタールへの)通知が遅すぎた」とも付け加えた。

 

カタールには米兵約1万人が駐留する中東最大規模の米空軍基地があり、同国は米国にとって非NATO主要同盟国でもある。今回の攻撃を受け、カタール政府は強く反発。ムハンマド首相は「イスラエルの攻撃は国家テロにほかならない」と非難し、「攻撃への対応権を留保する」と表明した。国連やアラブ諸国を含む国際社会も、一斉にイスラエルの行動を非難した。

[米国] 

労働省によると、2026年2月の公表する雇用統計の年次改定の推計値(2025年3月)が91.1万人程度下方修正される。市場予想(50~80万人の下方修正)よりも大幅な修正になった。失業保険の支払い実績などを反映した四半期雇用・賃金調査をもとに、年に1回過去の数値が修正されている。正式な修正は毎年2月であり、前年の夏に暫定的な推計値が公表されている。

 

大幅な下方修正が続く理由として、コロナ禍後の起業ブームなどから、起業による雇用増が速報段階で過剰に見積もられてきた可能性が指摘されている。また、不法移民の実態が反映されない雇用・賃金調査によって、速報段階で含まれていた不法移民の雇用者が改定で除かれている可能性も指摘されている。

 

今回の結果を踏まえると、就業者の水準がこれまでの想定よりも低く、労働市場が弱かったことになる。2024年4月から2025年3月までの1年間で、これまで月平均14.7万人増だったものの、今回の推計値を踏まえると7.1万人増に下方修正される。

 

もちろん、今回公表された値がそのまま2026年2月に反映されるわけではない。2024年9月に81.8万人の下方修正と発表されたものの、2025年2月に正式に修正されたのは59.8万人の下方修正だった。

 

一方で、米政権の批判は強まっている。2024年の修正ですら、トランプ大統領は、バイデン前政権が雇用統計を不正に操作していたと批判していた。7月の雇用統計発表時に、5~6月の値が大幅に下方修正されたことを不正操作として、労働統計局長を解任したことも記憶に新しい。今回の下方修正を受けて、再び統計発表元の労働省や金融政策を担うFRBなどを批判している。

[コートジボワール] 

9月8日、憲法評議会は10月25日に実施される大統領選の5人の立候補を承認した。同選挙には60人の立候補希望があったが55人が失格となった。立候補を認められたのは次の5人(カッコ内は所属政党)。

 

・アラサン・ウワタラ大統領(与党・民主主義と平和のためのウッフェ主義者連合((RHDP))

・ジャン・ルイ・ビヨン元商務相(民主主義会議(Code))

・アホア・ドン・メロ元インフラ・衛生相(元コートジボワール・アフリカ人民党(PPA-CI)

・シモーネ・エヴィエ・バグボ元大統領夫人(有能世代運動(MGC))

・アンリエット・ラグー元家族相(平和のための政治パートナー連合(GP-PAIX))

 

83歳のウワタラ大統領は事実上4期目となる大統領選に出馬する予定で(2025年7月30日デイリー・アップデート参照)、全国にわたる広範な支持基盤をもとに圧勝が予想されている。他方で、大方の予想通り6月に選挙管理委員会(CEI)が二重国籍を理由に大統領候補者リストから除外すると発表していた、最大野党・コートジボワール民主党(PDCI)のティジャネ・ティアム党首の立候補は認められなかった。また、2010年の選挙後の混乱時に中央銀行から資金を横領した容疑で有罪判決を受けていたローラン・バグボ元大統領(PPA-CI)も除外された。

 

主要野党のPDCIとPPA-CIは、それぞれティアム氏とバグボ氏の立候補が承認される可能性が低い中でも代理候補を擁立する「プランB」を拒否したことにより、結果として党公認候補を大統領選に出馬させることができなくなった。こうした党内の動きを受けて、ビヨン氏は直前にPDCIから離党し、少数政党連合のCodeに参加して立候補を可能とした。同様に、メロ氏もバグボ氏との対立の結果、PPA-CIを離党し、今回の立候補に至った。

 

PDCI、PPA-CIからの立候補が認められなかったことにより、最大都市アビジャンや、首都ヤムスクロなどを中心に野党支持者らによる抗議活動が向こう数日は活発になるとの見方がある。コートジボワールでは、2010年の総選挙結果に反対したバグボ氏の支持者とウワタラ氏支持者らとの衝突により3,000人以上が死亡する混乱に発展し、バグボ大統領と元夫人で今回の立候補者のエヴィエ氏が逮捕された(その後エヴィエ氏も有罪判決を受けたが、2018年にウワタラ大統領から恩赦を受けた)。また、2020年の総選挙後もウワタラ大統領の勝利に反対した野党支持者らとの衝突で50人以上が死亡する騒動が発生しただけに、選挙前後で治安が再び悪化する恐れがある。

 

大統領選の活動は10月10~23日に行われ、10月25日に投票を迎える。

[カザフスタン] 

2025年9月8日、中央アジア・カザフスタンのトカエフ大統領(72歳)は、国民に向けて年次教書演説を行い、国内における大規模な議会改革を発表し、上院を廃止し、議会を一院制にすると提案した。トカエフ大統領によると、カザフスタン議会の最高院である上院が1995年に「国家基盤を創設するための厄介な道を歩み始めたばかりの我が国の、かなり困難で不安定な政治状況の中で」創設されたと指摘し、新時代に向けて一院制議会を創設したい考えを明らかにした。

 

議会改革については政府が1年以内に議論や協議など準備を進めるが、一院制議会の是非については最終的に2027年の国民投票で、国民の意見を聞きたいと同大統領が提案している。トカエフ大統領は、将来的に一院制議会が実現したら、その選挙制度は既存の小選挙区比例代表連用制ではなく、国内の政党名簿比例代表制にするとの考えも明らかにした。

[中国/ポルトガル] 

9月9日、習近平国家主席は訪中したポルトガルのモンテネグロ首相と北京で会談した。習主席は、今年(2025年)が両国の包括的戦略パートナーシップ締結から20周年にあたることに触れ、イノベーション、グリーン発展、海事、医療などの分野における実務協力の拡大を提案した。また、「中国・ポルトガル語圏経済貿易協力フォーラム」(以下「中葡論壇」)のような枠組みを活用し、より高いレベルで互恵的な成果を達成すべきだと述べた。

 

現在、中国と欧州の関係は、米中対立の激化や欧州内部における対中警戒感の高まりにより複雑化している。EUは中国を「パートナー」と位置づける一方で、「競争相手」や「制度的ライバル」としても扱っている。さらに、ロシアのプーチン大統領と習主席の親密な関係も、EUと中国の関係に消極的な影響を与えている。

 

しかし、このような状況下で、ポルトガルは中国との協力を比較的前向きに推進している。2003年にマカオで中葡論壇が創設され、継続的な協力を行っているほか、ポルトガルは欧州で最初に中国と「一帯一路」協力協定を締結した国であり、アジアインフラ投資銀行の創設メンバーでもある。また、欧州で初めて中国と「ブルーパートナーシップ」(海洋協力)を構築し、人民元建て債券をユーロ圏で初めて発行した。

 

過去10年間で、中国からポルトガルへの直接投資は4.5倍に増加しており、ポルトガルはEU諸国の中でも一人当たりの受け入れ額が最も多い国の一つとなっている。欧州において対中投資への警戒が強まる中、中国側はポルトガルを「例外的成功モデル」として強調している。

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