デイリー・アップデート

2025年9月8日 (月)

[エチオピア/ナイジェリア] 

8月28日、エチオピアの国営投資ファンド・エチオピア・インベストメント・ホールディングス(EIH)とナイジェリア最大のコングロマリットのダンゴテ・グループは、エチオピア国内での尿素肥料製造プラントの建設計画を発表した。

 

同プラントは、エチオピア南部のソマリ州に40か月以内に建設される予定。総事業費は約25億ドル、年間生産能力は300万トンと単一プラントとしては世界最大級の規模となる。肥料の原料には2022年に米国企業により約7兆フィートの埋蔵量が確認された、ソマリ州・オガデン盆地から産出される天然ガスが使用される見込みだ。もともとエチオピア政府は、同天然ガスを隣国ジブチまで767kmのパイプラインを設置し、紅海から海外に輸出する計画を有していた。しかし、6月に政府が発表したエネルギー見通しにおいて、資金調達が困難であることを理由に同計画を中止し、肥料製造やガス火力発電など国内の産業向けに活用する方針を示していた。

 

エチオピアは農業が国内総生産(GDP)の3割強を占める農業国である一方で、肥料は海外からの輸入に依存する状況が続いていた。2023年の国連統計において肥料(鉱物性および化学肥料)はエチオピアの最大輸入品目(約7億ドル)であり、全輸入の4%を占めている。IMFの7月の発表によるとエチオピアの2024/25年度の貿易赤字は対GDP比で11.0%と高く、経常赤字(▲2.9%)が続く大きな要因となっている。しかし、肥料輸入を国内生産に代替できれば、貿易赤字解消につながり、外貨流出量が減少し、その結果、通貨ブルの安定や国際収支の改善につながるなどマクロ経済環境に好影響をもたらすとみられる。政府は将来的に周辺国への肥料の輸出も計画している。

 

ダンゴテ・グループはナイジェリアをはじめアフリカ10か国でセメントや肥料生産事業などを展開している。同社はエチオピアにも2015年に6億ドルを投じて年間250万トンのセメント生産施設を建設し、25年にもさらに4億ドルを投資して拡張を行った実績を有している。今回の肥料製造プラントプロジェクトの資本の6割をダンゴテが保有し、残り4割をEIHが所有する見込み。

 

今後、エチオピア政府は国内で生産される天然ガスをバックアップ電源としても使用する計画だが、現状、国内の総発電量の9割以上を水力発電が占めている。なかでも5,000メガワット級の国内最大の水力発電プロジェクト「グレート・ルネッサンスダム(GERD)」は下流のエジプト、スーダン、そして同プロジェクトに否定的なトランプ米大統領にも波紋を広げているが、9月9日に開所式が行われる予定。

[原油] 

9月7日、OPECプラス8か国はオンライン会議を開催し、2025年10月に日量13万7,000バレルの生産枠引き上げを決定した。これは2023年5月に開始した日量165万バレルの自主的追加減産の一部縮小である。2024年1月に開始した日量220万バレルの減産については2025年9月で解消を完了する予定で、一旦様子見するかと思われたが、最近の状況変化を踏まえてさらなる増産に踏み込む。

 

2025年4月からわずか半年で日量220万バレルもの減産を解消するにもかかわらず、中国の戦略備蓄増強などにより、市中では供給過剰は発生していない。また、減産縮小より前に割当量を超えて生産していた国もあり、ロシアは投資不足で生産能力が低下しており、実際の生産量はそこまで伸びていない。この先さらに減産解消を進めても、実際に生産量を増やせるのはサウジアラビアとUAE(アラブ首長国連邦)など一部の国に限られると思われる。

 

市場では、夏の需要期を過ぎた後は供給過剰が顕在化するとの見方が根強くある。今回の増産観測が流れた9月3日以降、原油先物は3日続落した。しかし、実際に供給量が増えなければ、むしろOPECプラスの予備生産能力の低下へと意識が移り、原油価格が下げにくくなる可能性もある。

[ロシア] 

中央銀行は、9月12日に金融政策会合を開く予定で、足元のインフレ率が一段と低下したことを受け、さらなる利下げに踏み切るかどうか、注目されている。市場の大方の予想は、現在の18.0%から2.0pt、または1.0~1.5ptの利下げとなっている。2025年7月には月次インフレ率が0.57%(年率換算で約7%)にまで低下したが、その時点で政策金利は18%であり、両者の乖離は10%を超えた。7月後半から8月のほぼ全期間にかけて、ロシア統計局は毎週デフレを記録した。しかし、月次ベースの最終データはまだ公表されていない。

 

一方、国内における高金利に対する国民や企業から不満の声が高まっており、9月4日にロシアの大手銀行ズベルバンクのゲルマン・グレフ最高経営責任者(CEO)は、経済は停滞しており、中央銀行が金利を引き下げなければロシアはリセッション(景気後退)に陥るだろうと述べていた。レシェトニコフ経済発展相も、「全体として、今後数か月のインフレリスクはそれほど高くない」とみている一方で、中央銀行から追加利下げがなければ、「経済の冷え込みリスクがある」と主張し、中銀に追加利下げを要請した。

[米国/韓国] 

9月4日、米国ジョージア州エラベルで建設中の現代自動車とLGエナジーソリューションによる合弁電池工場の建設現場において、米移民・税関捜査局(ICE)が大規模な摘発を実施し、475人が拘束された。拘束された人々の大半は韓国人で、現代・LGの下請け業者に派遣されていた技術者や労働者だった。

 

彼らの多くは、ビザ免除制度や短期ビジネスビザで入国しており、就労が認められていない状況で働いていたか、あるいはビザの滞在期限超過や不法入国であると指摘されている。LGの社員47人も含まれており、企業側は現在、事実関係の調査を進めている。

 

9月5日、韓国外交部は「米国の法執行過程において、我が国の投資企業の経済活動および国民の権益が不当に侵害されてはならない」として、遺憾の意を表明した。韓国政府は拘束された韓国人の釈放交渉を進めており、米国での行政手続きが完了次第、チャーター機で帰国させる方針を示している。

 

この工場は、米国が韓国に強く求めてきた対米投資の象徴であり、トランプ政権は韓国企業に対し総額3,500億ドル規模の巨額投資を確約させる一方で、高関税やビザ制限を課してきた。韓国メディアは今回の摘発を「衝撃」と報じ、米国の投資要請と今回の取り締まりとの矛盾を批判している。また、米国に投資した韓国企業が、現地の人材不足や技能の熟練度の問題に苦慮しているという報道もあり、トランプ政権の政策の矛盾が浮き彫りになっている。

 

現代とLGは安全確保を最優先とし、米国内での出張制限など緊急対応を開始した。米国当局は「下請け業者のネットワークを通じた違法就労」と説明している。工場は翌年の稼働を予定しており、今回の事態は米韓の経済関係や通商交渉に冷や水を浴びせる結果となっている。

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