デイリー・アップデート

2025年6月3日 (火)

[ブラジル] 

2025年第1四半期のGDPは前期比+1.4%となり、2024年第4四半期の+0.1%から加速した。四半期ベースでは、今回で15期連続の拡大となっている。

 

供給面では農業(同+12.2%)が成長を牽引した。好天などを背景に大豆(+13.3%)、トウモロコシ(+11.8%)、米(+12.2%)の生産が拡大した。ただし、ほかの供給部門はそれほど堅調ではなく、サービス部門は前期比+0.3%、商業活動は同+0.3%、工業については同▲0.1%となった。これは製造業(▲1.0%)と建設業(▲0.8%)が、金融政策の引き締めの影響を受けたと考えられる。

 

一方、需要面は堅調に推移し、特に投資(同+3.1%)と民間消費(同+1.0%)が好調だった。1月から適用された最低賃金の実質的な引き上げが寄与したことに加え、労働市場の強さが続いていることが下支えした。また、外需については、輸入が前期比+5.9%と大幅に増加し、輸出の+2.9%を大きく上回ったことで、貿易のGDP成長への純貢献度は再びマイナスとなった。

 

今後は、金融引き締めと財政不確実性によるリスクプレミアムの上昇を背景に、成長が鈍化すると予想され、市場では、+2.1-2.3%程度の成長を見込んでいる。しかし、最近導入された給与連動型信用枠組みが、最大4700万人の正規雇用者に低金利での貸し出しを提供することとなり、今後数か月間で成長に一定の貢献をもたらすと予想されることや、2026年は選挙年であるため公共支出が通常であれば増加する点から、上振れの可能性も指摘されている。さらに、政府が2026年所得税の非課税枠をほぼ倍増し5,000レアルまで引き上げるとの提案は、高所得層の可処分所得が増加し(約BRL30億、GDPの0.2%に相当)、民間消費(およびインフレ)を刺激する可能性も指摘されている。

[エチオピア] 

5月30日、国際通貨基金(IMF)とエチオピア政府は3回目の「拡張クレジットファシリティ(ECF)」プログラムのレビューを実施し、約3億6,000万ドルの融資実行につき実務間で合意した。6月中に行われるIMF理事会で承認されれば融資総額は18億ドルとなり、2024年7月に開始された同プログラム全体の35億ドルの約半数まで積み上がることになる。

 

IMFは2024年7月に実施された変動相場制への移行後も混乱は見られず、インフレ率、物品輸出、外貨準備高の動きはIMFの予測を上回る成果を挙げていると政府の取り組みを評価した。

 

他方で、2025年に入ってから通貨ブルの公式市場と並行市場レートのスプレッドが再び拡大している点を指摘。これは公式市場が外貨需要に応えられていないことを反映し、並行市場での高水準の手数料とコミッション料が継続していることを示しているため、引き続き政府による為替市場の改善に向けた措置の強化を求めた。変動相場制移行前の公定レートは1ドル=57ブルで、6月2日現在で1ドル=134ブル台(仲値)に低下。並行市場レートも移行前の1ドル=117ブルから158ブル前後に低下したが、依然として2割弱の開きがある。

 

また、IMFは6月のIMF理事会の前に「G20共通枠組み」の下で交渉を進めてきた公的債権者との債務再編に関する覚書(MoU)が締結される見込みだと述べた。エチオピアの対外債務の1/3近くを占める総額84億ドルの公的債務(二国間対外債務)の再編については、3月21日に「基本合意(AIP)」が結ばれたが、個別二国間でのMoUの合意・署名と、その後の法的拘束力を持つ二国間協定の締結をもって完了となる。エチオピアに先んじて債務再編を完了したザンビアとガーナは、MoUの合意から二国間協定の締結まで6~7か月を要したことから、エチオピアの公的債務再編の完了は2025年末頃とみられる(ユーラシアグループ)。

 

他方で、約10億ドルのユーロ債を保有する民間債権者団体との交渉は2月以降停滞している。エチオピア政府は18%の割引(ヘアカット)を提案するも、同団体はIMFがエチオピアの債務持続性を故意に過少評価していると非難し提案を拒否。民間債権者団体との債務再編に関する条件(パラメータ)は公的債権者との再編の条件がベンチマークとなるため(比較可能性の要件)、民間債権者団体は6月中に行われる二国間での合意内容を待つとみられる。

[米国] 

6月2日から上院が審議を再開し、トランプ減税拡充法案の可決を目指す。同法案は、5月22日に下院を賛成215票、反対214票で可決されている。2017年トランプ減税の恒久化や拡充のみならず、連邦債務上限の引き上げ、国境警備強化予算の増額、インフレ削減法(IRA)で規定されたエネルギー関連税額控除の削減、低所得層向けの公的医療保険給付の削減などが盛り込まれている。

 

同法案で、注目されている条項の一つが「899条」で、不公正な海外税制に対抗するための是正措置と位置付けられている。これは、米国企業等が一方的に不利になるような、差別的な税制(デジタルサービス税など)を有する国に対して、米国の税率を引き上げることで報復することが可能な制度となっている。対象は当該国の政府、企業、諸団体、個人などで、引き上げ対象税が施行初年から既存の税率に5%ずつ、最大20%まで上乗せされる。今後の上院の審議において、米国債投資の利息収入は対象外であること、施行時期を2026年後半以降へと遅らせることなどが明確化されるとの観測もある。

 

899条発動による経済的影響が懸念されているが、上院における法案審議が流動的であることから、最終的にどのような制度設計となるかは不明。トランプ大統領は、米独立記念日でもある7月4日までに法案の大統領署名に漕ぎつけることを議会側に要請しており、与党・共和党はそれを目標に審議を進めている。上院の議席構成は共和党53議席、民主党・独立系47議席。共和党から3人以上の造反があれば法案成立が著しく困難になるが、すでに歳出規模や公的医療保険の削減などを理由に法案に懐疑的な立場の与党上院議員が少なくとも4人は存在する。

[フィリピン] 

フィリピンの2024年コメ輸入量は世界トップの年470万トンを記録し、米国農務省によると2025年の輸入量は540万トン、2026年には550万トンまで拡大すると予測している。人口増、観光業の発展など経済成長に合わせて消費量が増えることが増加の背景として指摘されている。しかし、最初の5か月の輸入量は170万トンと前年比では21%ほど減少している。これは国内生産がやや増加したからと説明されている。最大の輸入元はベトナムで最も信頼できるとしているが、ベトナムのコメに対する周辺地域の供給意欲も強く、価格は上昇基調が続いている。

 

ローレル農務長官は最近のインタビューで、供給リスクの回避と安定した価格を求めるために、輸入元をインド、パキスタン、カンボジア、ミャンマー、インドネシアやタイといった国々に拡大させる可能性を示唆している。また、米農務省の見通しはやや過大で、今年の輸入量は450万トンを超えないのではないかとの見通しも示した。

[米国/中国] 

米トランプ政権が、中国が5月にスイスで合意した一時的な貿易休戦に違反していると批判したことに対し、中国商務部は反発し、ジュネーブで達成されたコンセンサスを著しく損なったのは米国側であると非難した。スイスにおいて双方が一時的に関税を引き下げることで合意した後も、米国は人工知能(AI)チップの輸出規制を強化し、中国人留学生のビザを剥奪するなど、中国に対する差別的かつ制限的な措置を継続しているとして、中国側は批判している。先週、ベッセント米財務長官が中国との協議について「少し停滞している」と発言するなど、米中間の緊張緩和が進まないとの見方が強まっている。6月2日、米ホワイトハウスのレビット報道官は、今週中にもトランプ大統領と習近平国家主席の電話会談が行われる見込みであると述べたが、中国側はこれに関する情報を発信していない。

[ベトナム] 5月21日、トランプ・オーガナイゼーションとベトナム地場大手デベロッパーのキンバックシティー(KBC)が北部フンイエン省で複合型都市開発プロジェクト「トランプ・インターナショナル・フンイエン」の起工式を行った。チン首相、トランプ・オーガナイゼーションのエリック・トランプ副社長ら両国の官民関係者が出席した。またトランプ副社長は翌22日からホーチミン市を訪問し、トランプ・タワーの建設候補地を視察した。

[米国/イスラエル] 

6月1日、米コロラド州ボルダーで、ユダヤ人コミュニティが主催したガザの人質解放を求める集会に対し、男が手製の火炎瓶などで攻撃し、52歳から88歳までの男女8人が負傷する事件が発生した。容疑者は45歳の男性で「パレスチナを解放せよ」と叫んでいたとのこと。同人物はその場で逮捕され、ヘイトクライムの罪で起訴された。今回の事件の約10日前の5月21日には、首都ワシントンDCのイスラエル大使館で勤務する若いイスラエル人外交官2人が、ユダヤ博物館の前で男に銃殺される痛ましい事件が起こったばかり。

 

イスラエルによるガザ攻撃は2023年10月7日に開始して以降600日を超えて続いており、ガザでのパレスチナ人の死者数は5万4,000人を超えた。ガザでの激しい戦闘と悪化する人道危機の映像が世界中のテレビやソーシャルメディアで流れ、ガザにおけるイスラエルの行動に対する国際的な批判は高まっている。イスラエルの元将軍で現在左派系野党民主党の党首であるゴラン氏は、「イスラエルはのけもの国家への道を歩んでいる」と警鐘を鳴らしている。

[ウクライナ/ロシア] 6月2日、ウクライナとロシアは、トルコ・イスタンブールで2025年5月に続く直接交渉を行い、和平条件などを明示した文書を交わした。ロシアはウクライナが求めた無条件での完全停戦を拒否し、最大の焦点だった停戦については進展がなかった。一方、前回の協議と同様に最大規模の捕虜交換では合意し、戦死者の遺体交換も申し合わせた。

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