2026年3月6日 (金)
[南アフリカ/イラン情勢]
3月4日、南アフリカ(南ア)のラマポーザ大統領は、「もし要請があれば」中東で激化する紛争の仲介役を務めるとの意向を示した。同氏は米国・イスラエルによる対イラン軍事作戦や、イランによる湾岸諸国への攻撃を終結させるためには対話が常に最善の方法であると強調した。
反・人種隔離政策(アパルトヘイト)運動の中心組織だった「アフリカ民族会議(ANC、現最大政党)」の党首でもある同氏は、歴史的にANCを支援してきたロシア(旧ソ連)やイランとの政治的なパイプを有している。ロシア・ウクライナ紛争においてもプーチン大統領、ゼレンスキ-大統領の仲介を試みるなど平和構築に前向きな姿勢を取っていることから、今回の中東紛争の仲介役にも名乗り出たものとみられる。
しかし、米国やイスラエルから「要請」があげられる可能性は極めて低い。イランとの連帯を示すハマスとの関係も深いANCは、2023年10月のイスラエルによるガザ軍事侵攻を受けてイスラエルをジェノサイド容疑で国際司法裁判所(ICJ)に提訴。これが米国・イスラエルと南アの外交関係を大きく冷え込ませるものとなった。トランプ政権は親中・露・イラン路線を維持する南ア批判を続けている。イスラエルも1月に在パレスチナ南ア上級代表を「ペルソナ・ノングラータ(好ましからざる人物)」と宣言し、国外退去を命じるなど関係改善の兆しは一向に見えない。
一方のイランも、最高指導者のハメネイ氏やナシルザデ国防軍需相、イラン革命防衛隊のパクプール司令官などが殺害されるなど体制が不安定化している。現状、イランはアラブ首長国連邦(UAE)やカタール、オマーンなど周辺国への攻撃を進めることによって、これらの国々から米・イスラエルへの働きかけを行うよう圧力を強めている中、次期指導者が南アに仲介を要請するかは不確かだ。
むしろ南ア国内ではANCの「行き過ぎた」イラン・ハマスとの連帯の姿勢が国家にとって大きな「コスト」になっているとの冷ややかな見方も多い。南アに拠点を置く安全保障研究所(ISS)は、ANCがアパルトヘイト運動撤廃に向けた闘争を行っていた最中に起こった1979年のイラン革命を称賛し、その後イランとの「親友」関係を維持しているが、こうしたANCの「ノスタルジア」のために国民に過大な代償(米国との関係悪化による関税措置など)を負担させるべきではないと批判。また、資金難に直面しているANCがイラン政府から資金支援を受けている可能性も指摘している。
イラン情勢悪化の影響は南ア発のグローバル企業にも及んでいる。南ア通信大手・MTNはイラン国内で第2の携帯通信事業者「MTN イランセル」の49%の株式を取得している。しかし、米国による対イラン制裁により内部留保している10億ドルの配当金を送金できないほか、反政府デモを抑え込むための通信遮断に協力した疑いなどで、世界17か国で通信事業を行うMTNグループ全体に対する米国からの監視が強まっている。さらに、イランセルの残り51%の株式はハメネイ氏やナシルザデ氏が率いていた企業・団体が保有している。しかし、その両者が殺害された混乱の中、米国にテロ組織として指定されているイラン革命防衛軍がイランセルを掌握する動きがあるとの噂もある。MTNのイラン資産は事実上「凍結資産」とみなされ。同社の株価の下落にもつながっている(3月3日付、Daily Maverick紙)。MTNのイラン進出は、ラマポーザ氏が同社の会長を務めていた2005年(ラマポーザ氏はマンデラ元大統領の側近だったが、政界を一時引退し、黒人起業家として成功した)に、ANCとイランとの間の親密な関係を通じて行われたとみられているが、中東紛争の激化が思わぬ形で南アおよびラマポーザ氏に跳ね返っているとも言える。
[韓国/中東情勢]
・3月5日、李在明大統領は中東情勢の悪化を受けて臨時閣議を開き、政府に対し、100兆ウォン規模の市場安定化プログラムを迅速に実施するよう指示した。
李大統領は、株式市場や為替市場の変動が強まっているとして、資本市場の不安を抑制するため、金融安定策を速やかに動員する必要があると強調した。一方で、政府が株式を買い入れて市場を人為的に押し上げるような対応は避けるべきだとの考えも示した。
また、ガス価格の上昇については、深刻な供給不足によるものではない可能性が高いと指摘し、必要に応じて地域別・油種別の価格上限制度の導入を検討するよう指示した。併せて、便乗値上げを取り締まる制度の整備も求めた。さらに、化石燃料価格の大きな変動に対応するため、再生可能エネルギーへの大規模な転換を進める必要性にも言及した。
このほか、中東地域に滞在する韓国人の安全確保に加え、軍用機やチャーター機を含む緊急避難計画の策定、周辺海域における韓国船舶および乗組員の安全確保についても指示した。
・アラブ首長国連邦(UAE)は、2022年に契約した韓国製の中距離・中高度地対空迎撃システム「天弓2」について、早期納入を要請した。しかし、韓国政府は、イラクやサウジアラビア向けの納期との調整や、UAEの安全状況などを理由に、対応は難しいとの立場を示していると報じられている。
[メキシコ/カルテル監視強化]
メキシコ政府は、麻薬カルテルによる燃料関連犯罪について、港湾での燃料密輸をめぐる捜査を拡大している。グアイマス、タンピコ、エンセナダの主要3港に対し、海軍および税関庁と連携して内部調査を指揮していることが明らかになった。
メキシコ政府はこれまでも、タンピコ港での燃料密輸疑惑について税関職員や海軍関係者を含む14人を逮捕していたが、州機関内部で燃料密輸を黙認したとされる汚職疑惑が高まる中、野党からの質疑で改めて確認された。
メキシコの燃料密輸は主に、米国から輸送される燃料の通関書類を偽造し、高額な輸入税を回避する手口である。密輸業者は、ディーゼルやガソリンを税免除の石油製品として虚偽申告し、結果として貨物価値の半分以上に相当する税負担を逃れている。米国財務省によれば、違法燃料や盗難原油は現在、麻薬に次いでメキシコのカルテルにとって2番目に大きな収入源となっており、その経済規模は年々拡大している。
密輸組織はこれまで主にトラックや鉄道を使っていたが、近年は石油タンカーを利用したより大規模な方法へ移行している。米・墨両国の治安当局者は、この動きがカルテルと港湾内部関係者の協力体制を示唆していると指摘する。ロイターは2025年の調査で、エンセナダ港とグアイマス港で、輸入ディーゼルを荷下ろししながらメキシコ国内では免税対象の潤滑油として申告された船舶を特定し、政府が約700万ドルの関税を失ったと報じていた。メキシコでは、2018年ごろまでは燃料パイプラインの盗難(通称「フアチョレオ」)が主流で、国営石油会社ペメックスの発表では、エネルギー盗難による年間損失は30億ドル規模に達した年もあるとされていた。その後、政府の介入で一時的に減少したものの、犯罪組織が密輸や陸海路での転用へシフトしたため、抜本的な改善には至っておらず、米国財務省は2024年時点で、違法燃料・盗難原油の収益は年間数十億ドル規模に達すると指摘している。
こうした状況から、メキシコ政府は港湾における密輸構造について、捜査を拡大するに至ったとみられる。今後の調査によって、港湾行政や治安機関内部のどこまで不正が浸透しているかが明らかになるかどうかが注目されている。
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