デイリー・アップデート

2026年3月12日 (木)

[南アフリカ・米国の外交関係] 

3月11日、南アフリカ(南ア)のロナルド・ラモラ外相は、駐南ア・米国大使のレオ・ブレント・ボゼル氏を召喚し、同氏の「外交的ではない発言」に対して抗議した。

 

米国の保守系メディアの創設者で、トランプ大統領の支持者であるボゼル氏は2月に米国大使として南アに着任した。3月10日、地元メディア向けの記者会見の場で同氏は、南アに対して「5つの改善要求」を提案。米WP紙によると、①(南アの)イランとの関係断絶、②「黒人経済力強化政策(BEE)」の改正、③補償なしの土地収用法の違法化、④農村部の犯罪対策の優先化、⑤「ボーア人を殺せ(注)」という歌をヘイトスピーチと認めることを要求した。

 

少数の白人による支配が行われていたアパルトヘイト(人種隔離政策)時代に闘争歌として広まったこの歌は、南アの極左政党「経済的開放の闘志(EFF)」のマレマ党首が2010年頃から再び使用するようになった。その過激な歌詞の内容から、同氏がこの歌を政治集会で使用することが憲法上、「言論の自由」の範疇(はんちゅう)であるかが争点となっていたが、2025年2月に憲法裁判所(最高裁)が「ヘイトスピーチとは認められない」と判決を下した。しかし、トランプ氏が二期目の大統領に就任した直後から「南アの白人農民が虐殺されている」と主張する中で、南ア出身の実業家・イーロン・マスク氏がトランプ氏の主張を擁護するため同歌を拡散。2025年5月の米・南ア首脳会談でもトランプ氏はマレマ氏が歌う動画を会談の場で生配信し、南アでの白人虐殺の根拠として使用した。ラマポーザ大統領は即座にマレマ氏は「政敵である」と反論したが、米国による「奇襲(ambush)」と報じられた同会談は、米国と南アの二国間関係の冷え込みを決定づけるものとなった。

 

こうした経緯がある中でボゼル氏は、「(南アの)裁判所が何を言おうが関係ない」と同歌をヘイトスピーチだと主張。これに対し、ラモラ外相は「南アの司法を貶めるような発言が見られた」とし、外交的ではない発言を修正するよう求めたと報じられている。ボゼル氏は自身のX上で、「南ア司法の独立性と判断を尊重する」と投稿し、自身の発言を撤回する動きを見せた。しかし、同氏はかつて反アパルトヘイト運動の中心人物だったマンデラ元大統領を「テロリスト」と主張していた人物だけに、独自の思想的背景から南ア政府に対する批判的な発言を続ける可能性がある。

 

世界最大の経済・軍事大国である米国から強い外交的圧力を受けながらも、南アは屈する姿勢を見せていない。ラマポーザ大統領は、米国・イスラエルによるイラン攻撃の直前に行われた米NYT紙のインタビューにおいて、トランプ政権のいくつかの政策は「人種差別的」であり、南アの実態(差別や犯罪)や理念(黒人格差是正政策や中・露・イランとの緊密な関係、イスラエルのICJ提訴など)について「まったく現実的感覚を欠いている」と公然と批判した(3月5日付、米NYT紙)。

 

イランでの戦闘開始後にも、同氏は米国の名を伏せながらも国際法に違反する行為を非難するとともに、「要請があれば」南アが停戦の仲介を行う用意があるとの毅然とした態度を貫いている。この米国に対して強気である背景には、南アは米国の経済的影響力から実質的に隔離されていること、情勢の不安定化により鉱物価格が上昇していること、相互関税が違憲判決となったこと、そしてBRICS諸国との協力関係が強固であることが南アに「自信」をもたらしているとの見方がある(3月11日付、Africa Report紙)。

 

また、3月9日、ラマポーザ氏は米・イスラエルによるイラン攻撃を同じく非難しているブラジルを国賓訪問し、ルーラ大統領と対談。南アが中核となる「南アフリカ関税同盟(SACU)」とブラジルが中核となる「南米南部共同市場(メルコスール)」間の特恵関税協定(PTA)の範囲拡大を議論するなど「南南協力」の強化にも乗り出している。中東情勢の緊迫化や米国からの圧力が強まる中でも南アは独自のデリスキングを図っている例と言えよう。

 

注:オランダ系アフリカーナー(白人)農民を指した旧称

[在韓米軍/防空装備を中東へ] 

米国とイスラエルによる対イラン攻撃の激化を受け、在韓米軍が韓国に配備している防空兵器の一部を中東へ再配置する動きが出ている。

 

報道によると、慶尚北道・星州に配備されている米軍の高高度迎撃システム「THAAD(サード)」について、発射車両に搭載されていた迎撃ミサイルが烏山空軍基地に移送され、その後、米軍の大型輸送機によって中東へ送られる見通しだという。一方で、発射台やレーダーなどの装備は星州基地に残される見込みで、システム全体が撤去されるわけではないとみられている。

 

また、低高度迎撃を担うパトリオットミサイルについても、中東への移転をめぐり米国と韓国が協議しているとされる。 米国とイスラエルによる対イラン軍事行動への報復として、イランは中東各地の米軍基地や関連施設に対し、ミサイルや無人機による攻撃を行っており、米軍は基地防衛のため迎撃ミサイルを大量に消費しているとみられる。こうした状況を受け、米国防総省がインド太平洋地域を含む各地から防空装備を一時的に中東へ振り向けている可能性が指摘されている。

 

韓国政府は、この問題について北朝鮮に対する抑止力には支障はないと強調しているが、韓国国内では懸念の声も出始めている。 今回の動きは、米軍が複数の戦域で同時に作戦を展開する中で戦力の再配分を行っている現実を示すものとして注目されている。中東情勢が長期化した場合、米国の同盟国に配備された軍事資産の運用をめぐる議論が、東アジアでも広がる可能性がある。

[米国/301条関税] 

3月11日、米通商代表部(USTR)は、通商法301条に基づき、他国による不当な行動、政策、慣行に対する調査を開始すると発表した。対象は以下の16か国・地域:日本、中国、韓国、台湾、シンガポール、インドネシア、マレーシア、カンボジア、ベトナム、タイ、インド、バングラデシュ、EU、スイス、ノルウェー、メキシコ。これらの国・地域における製造業の過剰生産について調査を行い、対象国・地域の政策や慣行が非合理的で差別的であり、米国通商を制約するものとUSTRが判断を下せば、関税を賦課することなどができる。通商法301条に基づく調査から12か月以内にUSTRは判断することが求められるが、2月の最高裁判決によって相互関税などを課す根拠法を失ってしまったことから、トランプ政権は代替手段を検討しており、当該301条に基づく関税発動を急ぐものと観測される。

[ブラジル/大統領選は拮抗] 

3月7日に発表された世論調査によれば、11月におこなわれる大統領選において、ルーラ大統領がフラビオ・ボルソナロ上院議員に対し3ポイントの僅差でリードしている(46%対43%)。前回の調査では、ルーラ大統領が51%対36%と大きく上回っており、選挙戦の構図が接戦に転じたことが明らかとなった。他の世論調査も同様の傾向が確認されており、ルーラ大統領のリードは縮小している。

 

こうした接戦化の背景には、フラビオ・ボルソナロ氏が主要野党候補として確立しつつあることに加え、ルーラ政権の支持がやや低下したことがある。マスターバンク事件の捜査が続いていることも、ルーラ大統領の支持率を下落させている。この汚職捜査は今後も当面続くとみられており、長く政治情勢を左右する要因となる。2月の経済センチメント指標も低下しており、将来の経済に対する楽観論も急速に弱まっている。国が「間違った方向に進んでいる」と考える有権者の割合は55%から58%へ増加し、経済見通しが悪化すると考える回答は29%から34%へ上昇した。

 

今後、ルーラ大統領は所得税控除や社会政策を計画しており、これが追い風になり得るため、7月に選挙戦が本格化するまでには、支持率が回復するとの予測もみられる。所得税控除への国民の期待は高く、61%が恩恵を期待している。また、調理用ガス補助金は1月時点で150万世帯に支給されたが、今月末までに1,550万世帯へ拡大する計画となっている。さらに、エネルギー補助金も現在の1,700万世帯からさらに400万世帯増やす予定である。ただし、エネルギー価格のインフレが見込まれており、家計への実質的な支援効果は限定的となる可能性がある。

 

さらに、捜査の進展や中東情勢の不安定化によって燃料価格や通貨に影響が及ぶ可能性があり、これから数か月は政権にとって厳しい局面となる可能性が高い。

[米国/CPI] 

米労働省によると、2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+2.4%だった。上昇率は1月と同じで、市場予想(+2.4~2.5%)並みだった。上昇率は2025年9月に+3.0%と、直近のピークをつけてから、2026年以降2%台前半まで鈍化している。また、食品とエネルギーを除くコアCPIは+2.5%、1月と同じだった。この上昇率は2025年7~8月に+3.1%まで拡大した後、10月以降3%を下回り、2%台半ばで推移している。

 

内訳をみると、食品は+3.1%、エネルギーは+0.5%だった。エネルギーのうちガソリンは▲5.6%と、2月までは前年の価格水準を下回っていた。その一方で、電気代(+4.8%)やガス代(+10.9%)は上昇した。財は+1.0%。新車(+0.5%)や中古車・トラック(▲3.2%)に比べ、衣料(+2.5%)の上昇が目立った。サービスは+2.9%。そのうち、家賃(+3.0%)や医療ケアサービス(+4.1%)の上昇率が高かった。

 

全米自動車協会(AAA)によると、レギュラーガソリン価格は2月末の1ガロン2.98ドルから3月11日時点では3.58ドルまで上昇した。今後の状況は、中東情勢次第であるものの、ガソリンなどエネルギー価格がさらに上昇する可能性がある。このように2月までの物価上昇率は落ち着きを取り戻しつつあった一方、先行きの物価の上振れが懸念される中では、連邦準備理事会は3月の会合で、政策金利を据え置くと予想されている。

[安保理/イラン非難の決議を採択] 

3月12日、国連安保理は、イランによる近隣国の攻撃を最も強い言葉で非難し、攻撃の停止を要求する決議を賛成多数で採択。同時にロシアが提案した決議は否決された。

 

バーレーンが決議案を提出したが、日本や米国など135か国が共同提案国に名を連ねており、今回の安保理決議は共同提案国の数が過去最多となったとされている。安保理では中国およびロシアが棄権したが、そのほか13の理事国が賛成票を投じ、可決された。

 

決議はイランによる地域での攻撃を国際法違反であり、国際平和と安全保障に対する深刻な脅威と断定している一方、米国およびイスラエルに関する言及はない。

 

また、海上安全保障に関し、ホルムズ海峡と紅海とアデン湾、インド洋を結ぶバブ・エル・マンダブ海峡を通るイランの航行妨害行為を非難し、イランに対し「これらの国際水路における合法的な通過や航行の自由を妨げる行為は国際平和と安全保障に対する深刻な脅威を構成すると述べ、イランへのそのような行為を控えるよう呼びかけている。

 

米国のウォルツ国連大使は「イランの攻撃は非常に残酷かつ無差別で、あらゆる方向に向けられたものだったので、以前は深刻な対立関係にあった国々が今や結束した」と強調し、改めてイランを厳しく非難。

 

一方、ロシアは投票後の理由説明の中で、米国およびイスラエルのイラン侵略に言及がない点で一方的だとし、「国際問題に詳しくない者がこの決議を読むと、テヘランが意図的かつ悪意からアラブ諸国に対して無差別な攻撃を行ったという印象を受けるだろう」と述べた。中国は、米国及びイスラエルは、国連安保理の承認なしに、国連憲章等の基本的な規範に違反して正統性のない攻撃を開始したと批判した。

[米・イスラエル/イラン攻撃の影響拡大] 

中東ではイランと米国・イスラエルを軸とする戦争が拡大し、軍事・経済・国際政治の各面で影響が広がっている。海上ではホルムズ海峡周辺の安全が急速に悪化し、タイ船籍の貨物船が攻撃を受けたほか、イラク南部アルファオ沖では原油を積んだ外国タンカー2隻が爆発物を搭載したボートに襲撃され、死者や行方不明者が出た。UAE沖でも貨物船が攻撃されるなど海上交通は深刻な脅威に直面している。イランが海峡に機雷を敷設した可能性も指摘されており、米軍は機雷敷設艦の排除を発表するなど緊張は一段と高まった。湾岸ではドローン攻撃も相次ぎ、UAE最大級のルワイス製油所が操業停止、オマーンの燃料タンク火災などエネルギー施設が標的となっている。

 

戦争による人的・社会的被害も拡大しており、イラン当局はこれまでに1,300人以上が死亡し、その多くが民間人だと主張している。住宅や医療施設、学校など約2万棟の民間建物が被害を受けたとされ、国内ではインターネット遮断が続く。一方、米国とイスラエルは軍事的優位を強調し、イランの指揮系統や軍事能力に大きな打撃を与えたと主張している。米国のトランプ大統領は戦争が「間もなく終結する可能性」を示唆する一方、イスラエルのネタニヤフ首相はイラン政権転覆の意向を繰り返しており、終結条件には大きな隔たりがある。イランのペゼシュキアン大統領は、賠償金の支払いや国際的な安全保障の確約を含む条件を提示し、長期戦に耐える構えを示している。

 

戦争は世界経済にも波及している。ホルムズ海峡の緊張により原油価格は急騰圧力を受け、イラン軍は1バレル200ドルの可能性を警告した。国際エネルギー機関(IEA)は過去最大規模となる4億バレルの石油備蓄放出で合意し、市場安定を図っている。また中東空港の機能低下により航空貨物網も混乱し、アジア―欧州間の物流停滞や運賃上昇が発生している。国際社会では国連安保理がイランの湾岸諸国への攻撃停止を求める決議を採択し、各国が外交対応を強めているが、紛争は海上安全保障、エネルギー市場、世界物流にまで影響を及ぼす大規模危機へと発展している。

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