2026年3月24日 (火)
[独ラインラント=プファルツ州議会選挙]
3月22日、独南西部のラインラント=プファルツ州にて州議会選挙(任期5年)が実施された。同州には総合化学メーカーであるBASFなどが本社を置いており、州内GDPはハンガリーのGDPとほぼ同等。
今回の選挙では、極右政党である「独のための選択肢(AfD)」の躍進度、および連邦政府の与党である「キリスト教民主同盟(CDU)」および「ドイツ社会民主党(SPD、社民党)」をめぐる動向が注目された。
同州では、35年間にわたり社民党が第一党を維持し州首相を輩出してきたが、今回の選挙では大敗した。今後は、第一党に躍進したCDUを中心に、社民党との連立が組まれる見通し。
極右政党であるAfDは、全独レベルの支持率(24%)には及んでいないものの、得票率を二倍以上に伸ばし(19.5%)、大きく躍進した。3月8日に実施されたバーデン=ヴュルテンベルク州議会選挙に引き続く躍進で、地盤である旧東独以外でも順調に支持を伸ばしていることが明らかとなった。AfDをめぐっては年始より縁故主義などのスキャンダルがあったものの、コアの支持層はその影響を受けず、堅調な支持を維持している。
今回の一番の注目点は、連邦政府の与党である社民党(SPD)が、3月8日に行われたバーデン=ヴュルテンベルク州議会選挙に引き続き大敗したこと。同日行われたミュンヘン市長選挙でも、現職の社民党市長が緑の党の候補に敗北したことから、社民党にとっては「ダブル敗北」となり、党内では執行部の責任を問う声や改革を求める声が高まっている。今後は、党内政治の混乱や党内左派の影響による政策の左傾化に伴い、連邦与党を組む中道右派のCDUと衝突する場面が増えることが懸念される。独高級週刊誌『SPIEGEL』による分析では、現職首相の個人的人気だけでは政権への不満を抑えきれなかったことが社民党敗北の要因とされ、一方でCDUは特に経済、交通、教育など政策面が評価され、第一党の座を奪還したとされる。
[対イラン戦争の影響]
イラン戦争が開戦から4週目に入り、軍事衝突そのもの以上に「停戦条件・ホルムズ海峡・エネルギー市場」をめぐる政治戦へ移行しつつある。トランプ大統領は3月22日(日本時間)に、「48時間以内にホルムズ海峡を解放しなければイランの発電所を破壊する」と自身のSNSに投稿したが、その翌日には、イランとの交渉がうまくいっていることを理由に「期限を5日間延長する」と改めて投稿するなど、発言が二転三転している。米国はイランに対し、ウラン濃縮停止、ミサイル計画凍結、核施設廃止、代理勢力への資金停止など極めて広範な譲歩を要求しているとみられるが、他方イランは賠償と将来の再攻撃防止保証を停戦条件に掲げており、双方の隔たりは大きい。交渉は再開の兆しを見せつつも、実質的には条件の押し付け合いに近い。なお、イラン側は交渉を否定している。
軍事面では、米・イスラエル側が空爆と防空で優位に立つ一方、イランはミサイル攻撃や湾岸諸国への圧力、そしてホルムズ海峡という戦略的要衝を通じて対抗している。実際、海峡通航は大幅に減少し、湾岸・イスラエル・周辺地域への攻撃も拡大しており、戦線は明確に地域全体へと拡散している。さらに、戦争の対象が核・軍事施設に限定されず、発電所や石油・ガス施設、物流拠点など民生インフラやエネルギー網にも及んでおり、単なる軍事衝突を超えた「経済基盤の破壊戦」の様相を見せている。
経済面では、原油価格は急騰し、海上輸送の停滞はエネルギーのみならず、食品、化学素材、半導体、希ガスといった広範な供給網に波及している。日本企業を含む製造業にも影響が顕在化し、戦争はすでにグローバル経済を揺るがす段階にある。米国自身も価格抑制のため対ロシア・対イラン制裁を一部緩和するなど、軍事強硬姿勢と経済現実の間で矛盾を抱えている。最終的な焦点は、軍事力ではなく、政治的・経済的コストにどちらが先に耐えられなくなるかに移りつつある。
[アフリカ/石油調達への影響]
ホルムズ海峡封鎖が長期化するにつれ、サブサハラ・アフリカ(サブサハラ)各国は石油調達・供給の対策に迫られている。
エネルギーの純輸入国がほとんどであるサブサハラでは、総輸入に占める石油輸入の割合が20%を超える国も少なくない。なかでも、東アフリカは湾岸諸国からの調達比率が最も高い地域のため、油価高騰だけではなく供給面での不安も同時に増している。アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、オマーン、クウェート、バーレーンの湾岸5か国からの石油の輸入調達比率は、ケニアで約80%(2024年国連統計)、ウガンダが約72%、タンザニアが62%、エチオピアが約97%(2023年)と極めて高い水準にある。ケニアやエチオピアでは燃料補助金制度が継続しているが、油価高騰は政府の財政面での大きな負担となっていく恐れがある。エチオピアは3月16日に燃料補助金を引き上げると当時に、アビィ首相自らが国民に燃料の節約を求めた。
サブサハラ第二の石油輸入国である南アフリカ(南ア)を擁する南部アフリカも、中東産石油の依存度が高い国は多い。南アの上記湾岸5か国からの調達比率は全体の約72%にも上る(2024年)。南アは1970~80年代のアパルトヘイト政権下で国際社会から石油禁輸制裁を受けていた際には、約1年分となる1億5,000万バレルの戦略的原油備蓄量を保有していた。禁輸制裁時代にもイランのパーレビ政権から原油輸入を受け続けていたが、1979年のイラン革命で反米色の強い政権が誕生したことによりイランからの輸入が途絶。そうした状況を受け、南アは国内石油化学最大手・SASOL(サソール)による石炭液化技術(FT合成)開発を促進した。今も同社は世界で唯一、商業的スケールで石炭から液化燃料を精製している企業だ(なお、同社の株価は過去3か月で約2倍に上昇)。しかし、アパルトヘイト廃止と共に石油禁輸が解除されたこと、また国内での環境基準の強化等を受けて石油精製施設の減少し、現在はサソールのセクンダ・プラント(日量15万バレル)を含め35万バレル程度の精製容量しかなく、燃料消費量の約7割を輸入に頼っている状況だ。国内には依然として770万バレルの原油備蓄があるが、精製施設の能力が落ちていれば意味がないとの厳しい指摘もある(3月23日付、Daily Maverick紙)。中東情勢の緊迫化が南アのエネルギー安全保障上の構造的な弱点を浮き彫りにしている。
一方で、サブサハラ最大の原油産出国である西アフリカのナイジェリアは、原油生産と石油輸出双方の拡大に舵を切ろうとしている。ナイジェリアは日量65万バレルを精製可能なダンゴテ製油所が本格稼働する2024年までサブサハラ最大の石油輸入国だった(約150億ドル、2024年国連統計)。それでも湾岸5か国からの調達は全体の約11%に過ぎず、石油調達の多様化が図れていた。しかし、今般の中東情勢の悪化を受け、3月10日ナイジェリア政府はガソリン輸入業者に対する許可証の新規発行を停止。事実上、海外からの石油精製品の輸入を禁止し、ダンゴテ製油所など国内の精製業者の保護を強化する動きを示している。ナイジェリアは原油生産量を現在の160~170万バレル/日から180万バレル/日に拡大する目標を掲げているほか、ダンゴテは西アフリカ周辺国への石油輸出量を2月の平均10万バレル/日から3月には21万バレル/日に拡大させている(3月23日付、ロイター通信)。
中東情勢の行く末が不透明な中、サブサハラ各国でもそれぞれの国が持つ状況に応じた、エネルギー調達・供給に関する中長期的な戦略の見直しが急務となっている。
[インドルピー対ドルレート、史上最安値更新]
3月23日、インドルピーの対ドルレートは1ドル=93.9ルピーと、史上最安値を更新した。イラン情勢を踏まえた経常赤字拡大や経済成長減速の懸念を受けた海外投資家のインド株式・債券売りが要因となった。
ルピーの対ドルレートは、2023年・2024年に1ドル=82~84ルピーの水準で推移していたが、2025年以降は米国による相互関税(25%)やロシア産原油購入に対する追加関税(25%)が課されたことで経常赤字悪化懸念が広がり、減価が続いてきた。2026年1月末には1ドル92ルピーの水準まで迫ったが、2月初旬以降は米国との暫定貿易枠組み合意を踏まえて1ドル=90ルピー台まで回復した。
イラン情勢に関し、インドはLPGの供給の約50%を湾岸諸国(サウジアラビア・UAE・カタール・イラク・イラン・オマーン)に依存しているが、ホルムズ海峡からインドに航行予定であったLPGタンカーが海峡を通過できていないことから、国内では供給不足が深刻化している。一部ホテル・レストラン等ではLPGガスの在庫が十分にないために休業している。政府はLPG需要抑制のために家庭用・産業用LPGガスボンベの価格を引き上げているほか、国内石油精製施設に対しLPGを増産するよう要請している。
同国における2025年の輸入額のうち、原油・石油・ガスは合計で26%を占める。各々の湾岸諸国(サウジアラビア・UAE・カタール・イラク・イラン・オマーン)への輸入依存度は26%、37%、73%。これら品目の価格高騰により輸入額が増加することが予想される。
加えて2025年の輸出額(8,220億ドル)のうち、湾岸諸国は全体の15%を占めるほか、外貨収入源である海外労働者送金(1,376億ドル(2025年))のうち、湾岸諸国からの送金が全体の約4割を占めている。今後、イラン情勢を受けた湾岸諸国での経済活動低迷によりインドからの輸出・インドへの海外労働者送金が減少した場合は、貿易赤字が拡大するほか、第二次所得黒字が縮小することが懸念される。これら懸念も踏まえ、ルピー安に拍車がかかった形となった。
ルピー安は、輸入物価高騰によりインフレ率を高めることが懸念される。なお足元のインフレ率は3.2%と、中銀の目標バンド(2~6%)以内には収まってはいるものの、2025年10月(0.3%)から上昇傾向にある。特に食料品価格高騰がインフレ率上昇要因となっている。米・小麦など主要穀物の食糧自給率は100%を達成しているが、尿素肥料に関しては消費量の約3割を輸入に依存しており、そのうち約40%を湾岸諸国から輸入している(アル・ジャジーラ、2026年3月18日付記事)。湾岸諸国からの肥料の供給が途絶した場合は農作物収穫減少を通じて食料インフレに拍車がかかる可能性がある。特に食料品のインフレは家計の期待インフレに結びつきやすいため、食料品のみならずコアインフレ率上昇にも繋がりかねない。
直近のルピー安に対し、中銀はこれまで為替介入によりルピーの減価ペースを抑制してきた。3月初旬からの3週間で、中銀は200億ドル超の外貨準備高を取り崩しドル売り・ルピー買いを実施した(フィナンシャル・タイムズ、2026年3月20付記事)(1月末時点での外貨準備高が5,609億ドル)。
[紛争長期化はルーラ再選に逆風]
中東における紛争の長期化は、ブラジル経済に対する下振れリスクを強めており、結果としてルーラ大統領の再選環境にも逆風となりつつある。国際的なサプライチェーンの混乱はすでに顕在化しており、南部リオグランデ・ド・スル州ではディーゼル燃料の供給不足が発生している 。紛争が長引けば、石油製品や肥料、貨物輸送コストの上昇が全国的に広がる現実味が増している。これらはいずれもブラジル経済、とりわけ農業と物流を支える基盤的要素であり、成長と物価の両面で悪影響は避けられない。
ブラジルはディーゼル消費量の約25?30%を輸入に依存しており、国際価格や物流停滞の影響を受けやすい。ディーゼル価格の上昇は、長距離輸送への依存度が高い同国では即座に輸送コストを押し上げ、穀物や畜産物など農産物価格を通じて家計に波及する。加えて、肥料輸入の多くを海外に依存する中で、肥料価格の上昇は農業生産コストを直接的に押し上げる要因となる。こうしたコスト増が一過性にとどまらず持続すれば、食料価格の上昇を通じてインフレ圧力は一段と強まり、有権者の政権評価を押し下げかねない。
2022年のウクライナ危機の際には、当時のボルソナロ政権が燃料価格高騰への対応として、連邦税・州税の引き下げや、国営石油会社ペトロブラスに対する価格調整への政治的介入、補助金措置などを組み合わせた対策を講じた。これらは短期的には 家計負担の緩和につながったものの、財政赤字の拡大やエネルギー市場の価格を歪めたとの批判も根強い。現在のルーラ政権としても、同様の手段を再び用いるかどうかは難しい判断を迫られており、財政規律を重視する姿勢との間でジレンマが生じている。
今回の価格高騰が中東紛争という国外要因に起因するものであっても、食料と燃料のインフレが国民生活を直撃する以上、その政治的コストは大きい。特に低所得層を支持基盤としてきたルーラ大統領にとって、生活必需品価格の上昇は再選に向けた大きな障害となり得る。こうした不満の高まりを背景に、野党勢力、とりわけフラビオ・ボルソナロ上院議員らは、ルーラ政権の危機対応能力や統治全般を厳しく攻撃する可能性が高い。
経済面の不安に加え、政治・制度面でもルーラ政権には逆風が吹いている。連邦最高裁判所(STF)に対する国民の信頼は、2025年8月の49%から34%へと大きく低下している状況で、これは判事を巡る汚職スキャンダルが相次いだことが主因とみられる。同時に、将来の国の方向性に対して悲観的な見方を示す国民が増えていることも調査で明らかになっている。STFと大統領官邸が近い関係にあるとの認識が広がる中、司法への不信は行政評価にも波及し、現職政権に不利に働いている。
さらに、政治と制度を巡る不透明感は人事にも影を落としている。3月20日、財務大臣は、2025年12月以降空席となっているブラジル中央銀行理事ポストについて、ルーラ大統領がいまだ正式な招待を行っていないことを明らかにした。あわせて、司法長官のSTF判事指名と承認が遅れていることも、政権運営への不信感を強めている。これらの遅れは、上院で影響力を持つアルコルンブレ議長との調整の行き詰まりを反映したものであり、政治的求心力の低下を印象づけている。
燃料・物価対策を巡る経済運営と、司法・中銀人事を含む制度面での停滞が、政権の安定性に対する疑念を強めつつある。
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