2026年3月23日 (月)
[カザフスタン/国内政治]
3月17日、カザフスタン中央選挙管理委員会は、3月15日に実施された新憲法案の是非を問う国民投票について、賛成が87.15%に達したとの最終結果を発表した。これを受けてトカエフ大統領は新憲法に署名し、新憲法は7月1日に発効する予定である。今回の憲法改正は、ナザルバエフ前大統領の下で1995年に採択された現行憲法を大幅に見直すものであり、現在の二院制議会を一院制へ移行することや、副大統領職の復活など、統治体制の制度設計に関わる重要な変更を含んでいる。一院制となる新議会の選挙日程については、2026年7月に発表される見通しとされている。
さらに注目されるのは、トカエフ大統領自身が2029年に大統領任期満了を迎える点である。今回の憲法改正を踏まえ、大統領が①任期満了を見据えて後継者を選定し、秩序だった政権移行を図った上で退任するのか、それとも②新憲法の下で制度的正当性を確保した上で、大統領任期を事実上リセットし、改めて選挙に出馬するのかについては、現時点では明らかになっていない。新憲法の施行とそれに伴う政治制度の再編が進む中、今後数年は政権移行のあり方と権力承継の行方が、カザフスタン政治における最大の注目点となる可能性が高い。
[ケニア・ウガンダ/鉄道建設]
3月21日、ケニアのウィリアム・ルト大統領とウガンダのヨウェリ・ムセベニ大統領は、ケニア西部最大都市・キスムにおいて、キスムとケニア・ウガンダ国境のマラバを結ぶ標準軌鉄道(SGR)の起工式に出席した。同区間では、両国が英国植民地下に置かれていた1900年代にすでに狭軌鉄道(MGR)が整備されていたが、1960年代の両国の独立以降、十分に活用されていない状況が続いていた。ルト大統領は、SGRへのアップグレードが完了すれば、総延長1,000km以上に及ぶ、ケニア最大の港湾都市・モンバサから内陸国ウガンダまでの貨物鉄道輸送に要する時間は、現在の80時間から大幅に短縮されることになると、その効果を強調している(3月22日付、仏RFI)。
東アフリカ諸国であるケニア、ウガンダ、タンザニアではそれぞれの国内での政治的・経済的思惑も相まって域内の鉄道輸送能力を強化する動きが進んでいる。ケニアは、中国輸出入銀行(China EXIM-Bank)からの50億ドル規模の融資を受け、2017年にモンバサ~首都ナイロビ間の480kmのSGR新設を完了。2019年には第二区間としてナイロビ~ナイバシャ間(120km)の延伸を完了させた。対中債務の増加から、ナイバシャ~キスム~マラバ間のSGR整備は遅延したが、ルト大統領は2025年12月に「国家インフラ基金」の創設を発表し、同区間の整備を最優先事項にすると発表。ケニア通信最大手・サファリコムの政府持分売却(約20億ドル)や、国営・ケニア・パイプライン社(KPC)の新規公開株式(IPO)の上場と株式売却(約12億ドル)で得られた種銭を基に鉄道整備を推進する計画だ。ルト大統領がこれほどまで鉄道をはじめとするインフラ整備に重点を置いている最大の理由は、2027年8月に同氏が二期目を狙う大統領選が予定されているためだ。3月19日にケニア西部・ナロクで開かれたナイバシャ~キスム間のSGRの起工式にもルト氏自らが出席。ナロクはルト氏の出身のリフト・バレー地方の主要都市であり、同氏と同じくカレンジン族が多数派であるため選挙に向けた支持固めの要素が強い。また、キスムは、前回2022年の大統領選でルト氏に接戦で敗れた故ライラ・オディンガ氏(ルオ族)率いる最大野党「オレンジ民主運動(ODM)」の牙城だ。しかし、オディンガ氏が2025年に急逝したことを受け、ODMの内部分裂が進む中、ルト氏が鉄道整備という地域経済への貢献が大きく、地方部の「疎外感」を薄めることができるプロジェクトを通じて、オディンガ氏支持層の票を奪いにかかっているとの見方が多い。実際にキスムへの延伸完了は2027年7月に予定されており、選挙の直前に完了することからインフラ整備を投票行動に結びつけようとしている目的が明らかだ。なお、今回のSGR整備区間では、中国からの融資は受けないものの、引き続き中国交通建設(CCCC)が建設を請け負うと報じられている。
ウガンダでは1986年以降、大統領を務めるムセベニ大統領が2026年1月の選挙で再選を果たしたばかりだが、同氏も内陸国であるウガンダの物流網の改善は国家の最優先事項だと捉えている。2024年11月にウガンダの首都カンパラからケニア・ウガンダ国境のトロロ(ケニアのマラバの反対側)を結ぶ273kmのSGR(電化)整備を着工。イスラム開発銀行からの融資を受け、建設にはトルコ建設大手Yapi Merkeziが参画している。モンバサからカンパラまでSGRの接続が完了すれば、現状、鉄道とトラック輸送の併用で積み替えや輸送に要しているコスト・輸送時間は大幅に短縮できる見込みだ。また、タンザニアでも2024年に同じくYapi Merkeziが整備した最大都市ダルエスサラームと首都ドドマ間の514kmのSGRが開業(スタンダードチャータード銀行が14億ドルを融資)。政府はさらにドドマからビクトリア湖南岸最大の都市ムワンザまでを結ぶ鉄道新設を計画している。タンザニアでは1970年代に中国が整備した「タザラ鉄道(別名、タンザン鉄道)」の改修にあたり、中国が14億ドルの融資を発表(2025年12月)するなど、依然として中国からの新規借入も一部では続いている。しかし、将来的な地域統合を目指している「東アフリカ共同体(EAC)」内では、資金調達の多様化を進めながらも、域内の鉄道・道路をはじめとする物流ネットワークの強化が着々と進んでいる。
[台湾/原子力発電]
頼清徳総統は、政府がこれまで掲げてきた「脱原発」方針を転換し、原子力発電の再稼働を検討する計画を明らかにした。新北市の第2原発(国聖原子力発電所)と屏東県の第3原発(馬鞍山原子力発電所)の再稼働案を、今月末までに原子力安全委員会へ提出する予定だという。台湾は2025年5月に最後の原子炉を停止し、東アジアで初めて原発を持たない地域となったが、法改正や経済成長、国際社会での低炭素電力需要の高まり、AI時代の電力需要増などを背景に政策の見直しを進めている。
頼氏は、原発がなくても台湾の電力供給は2032年まで安定的に維持でき、予備電力率も常に10%以上を確保できるとの見方を示した。一方、立法院が昨年、原子炉施設規制法を改正し、廃炉段階に入った原発でも条件付きで運転継続を可能にしたことが、再稼働検討の法的根拠になっていると説明した。
台湾電力(台電)の事前評価では、国聖と馬鞍山の両原発は再稼働が可能と判断されており、GEエアロスペースとウェスチングハウスが安全審査を支援する予定だ。再稼働の判断では、安全性、核廃棄物処理、社会的合意の三点が重要な条件になる。台電はまず馬鞍山原発の再稼働計画を原子力安全委員会に提出する予定で、再稼働には審査と認可が必要となる。新しい燃料棒を調達できれば、同原発は2028年に再稼働する可能性があり、国聖原発は約1年遅れの2029年頃が見込まれている。
また頼氏は中東情勢の不透明さにも言及し、台湾のエネルギー備蓄について説明した。現在、石油備蓄は法定の約90日を上回る100日以上分があり、天然ガスも法定11日に対し12~14日分を確保しているとし、少なくとも来月の供給には問題がないとの認識を示した。さらに米国からの追加調達分が6月に到着する予定だと述べた。
[アルゼンチン/軍事クーデターから50年]
2026年3月24日、アルゼンチンは近代史上最も暗い影を落とした軍事クーデターの発生から50周年という、極めて重い節目を迎える。1976年のこの日に始まった軍事独裁政権は、多くの左派系の市民が殺害され、アルゼンチン社会に消えない傷跡を残した。
国内では反独裁に関する記念式典やデモなどが計画されているが、これまでの独裁への認識を根底から揺さぶるミレイ大統領の「歴史修正主義」にも注目が集まっている。
人権団体や歴代の左派政権は、軍政下を国家によるテロだとし、犠牲者を「3万人」と定義し、「二度と繰り返さない」という合意を民主主義の礎石としている。市場開放や民営化についても独裁政権の延長と定義する一方、過去への否定を際立たせることで、自らを人権と正義の守護者としている。一方、2023年末に就任したハビエル・ミレイ大統領は、このコンセンサスを真っ向から否定し、独裁政権時代の行為は「国家テロ」ではなく、左翼テロリストとの内戦であったと再定義しようとしている。また、公の場で「3万人という数字は嘘であり、公式記録にある9,000人弱が真実だ」と繰り返し主張し、左派政権(キルチネル派)が「人権ビジネス」のために数字をねつ造したとしている。
ミレイ大統領が、デリケートな歴史問題に踏み込むのは、単なる個人的な信念というよりも、経済改革という名目で既存の価値観をすべて破壊しようとする「文化戦争」の一環であり、特権階級や左派勢力打破を掲げる政治的戦略となっている。
ただし、最近の世論調査においても、国民は軍事独裁の否定と民主主義の再確認を示しており、肯定的な層はわずか7%に過ぎない。また、国連や人権監視団体からも民主主義の後退を危惧する警告が相次いでいる。それでも、ミレイ大統領の支持基盤である若年層や強硬な保守層には熱狂的に受け入れられており、全体的な支持率は40~50%を維持している。経済再生への望みを託して政権を支持し続けるという構図が、当面維持されそうである。
[「有事の金」の価格下落]
「有事の金」「インフレヘッジ」とされる金価格が足元で急落している。2025年から26年初にかけての急騰後、ピークから1,000ドル超下落し、年初来でもマイナス圏に近づいた。3月23日のアジア市場では1トロイオンス4,300ドル台で取引されている。
背景としては、ドル高進行による逆風、投機資金のレバレッジ解消などが指摘される。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、エネルギー価格上昇や輸出停滞で外貨準備を取り崩す必要が生じた国では、金購入余力が低下し、場合によっては売却に回る可能性もあると指摘している。外貨準備は本来、危機時の輸入能力確保のための資産であり、石油輸入国や財政圧迫を受ける産油国が、金準備の一部売却に動く可能性が指摘されている。
実際、中央銀行は総じて金の需要側であるものの、「いざというときの売却」を巡る議論が散見される。ロシアでは2025年来既に、財政補填や流動性供給のため現物売却が確認されている。2025年の金の大口購入国だったポーランドは、トゥスク政権が防衛費の財源確保のためEUの「欧州安全保障行動計画」の融資枠を活用する方針である一方、中央銀行はEUに頼らない独自策として金準備の一部売却を提案したと報じられている。イタリアでも2025年、法的に金が国家資産であることを明確化し、将来的な債務削減への活用余地を残すという議論が浮上したとの報道がある。
混乱が収束すれば再びファンダメンタルズ重視に戻るとみられるが、短期的には売り圧力の強まりが意識されやすい状況にある。
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