2026年3月10日 (火)
[欧州/武器輸入量の急増]
3月9日、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、2021~25年の世界の武器取引量が、2016~20年比で9%増加したと発表した。特に欧州の輸入量は3.1倍と急増している。
SIPRIによれば、武器輸入の増加幅は2011~15年以降で最大となった。この背景には、ロシアへの脅威認識の高まりや、米国の欧州防衛に対する不確実性が挙げられ、これらがNATO加盟国間の需要を押し上げているという。SIPRI武器移転プログラム責任者のマシュー・ジョージ氏は、「欧州への流入急増が、世界の武器移転を約10%押し上げた」と分析している。
供給側では、米国が世界シェアの42%を占め、前回の36%からさらに支配力を強めた。地域別の輸出先としては、20年ぶりに欧州(38%)が中東(33%)を抜き最大となった。ただし、単一国としての最大輸出先は依然としてサウジアラビア(米国輸出の12%)である。第2位の供給国はフランス(シェア9.8%)となった一方、ロシアは上位国で唯一大幅減となり、前回比で64%減と大きく後退した。
[イラン/戦争の展開と最高指導者の選出]
米国・イスラエルとイランの戦争は勃発から10日が経過し、軍事衝突と政治的変化が同時に進んでいる。最大の転機となったのは、米国とイスラエルの攻撃により2月28日にハメネイ最高指導者が死亡し、その後、同師次男のモジュタバ師(56歳)が第3代最高指導者に選出されたことである。専門家会議による正式な手続きを経て就任し、革命防衛隊(IRGC)や政府・軍の幹部は忠誠を表明した。体制側はこの決定を、外部からの攻撃にもかかわらずイスラム体制が維持されることを示す象徴的な措置と位置づけている。一方で世襲に近い形の継承であることから国内外で評価は分かれており、本人はこれまで公職経験が少なく、今後は革命防衛隊の影響力が一層強まる可能性も指摘されている。
軍事面では米国とイスラエルがイラン国内の軍事施設やインフラなど多数の標的を攻撃し、イランのミサイル能力は大幅に低下したと主張している。トランプ米大統領は今回の戦争を「短期的な遠征」と表現し、戦闘は近く終結するとの見方を示した。ただし、イランがホルムズ海峡の航行を妨害し続ける場合は、より大規模な攻撃を行うと警告している。イラン側もイスラエルや湾岸地域、米軍関連施設への攻撃を続けており、戦闘はレバノンや周辺地域にも広がりつつある。
国際社会の反応は分かれている。ロシアやオマーン、イラクなどは新指導者の就任を歓迎し、ロシアはイランへの支援継続を表明した。中国も「選出はイラン憲法に基づくもの」として主権尊重を訴えている。一方、米国とイスラエルは強く批判し、イスラエル国防相は新指導者を暗殺対象とする可能性を示している。
また、紛争の最大の焦点となっているのがホルムズ海峡である。封鎖や航行障害への懸念から原油価格は一時1バレル119ドル台まで上昇し、世界のエネルギー市場に大きな衝撃を与えている。特に日本は原油輸入の約9割を中東に依存し、その多くがホルムズ海峡を通過するため、影響は極めて大きい。原油価格の高騰は電力料金やガソリン価格の上昇につながるほか、石油化学製品の原料であるナフサや肥料原料などの供給にも影響し、化学、製造、農業など幅広い産業に波及する可能性がある。今回の紛争は、中東の安全保障問題にとどまらず、日本経済やエネルギー安全保障にも直接的かつ深刻な影響を及ぼし得る状況となっている。
[マダガスカル/首相・全大臣解任]
3月9日、マダガスカル政府は公式Facebookにおいて、ランジアニリナ大統領が首相と大臣全員の解任を決定したと発表した。解任の理由は明らかになっていないが、憲法で定められた手続きに沿って新首相および新大臣の任命手続きを進めるとしている。現時点で新首相候補の名は挙がっていないものの、大統領が南部の沿岸部出身であることから、慣習的に首相は中央・高原部から選ばれるとの見方がある(3月9日付、仏RFI)。
マダガスカルでは、国内での電力・水道供給の問題を発端として、Z世代を中心とした大規模な抗議デモが拡大。2025年10月にランジアニリナ氏が率いる軍の精鋭部隊「CAPSAT」がラジョリナ前大統領を国外追放し、権力を掌握した。ランジアニリナ氏は「2年以内」の民主的な政権への移行を約束する「再建(refondation)」政府を設置し、自らを再建大統領と称している。同氏は大統領就任後に元実業家で国際機関での経験も豊富なラジャオナリヴェル氏を首相に指名。さらに、明確な反ラジョリナ派や軍出身者を含む29人の大臣を指名し、汚職撲滅やビジネス環境の安定化を中心に掲げた新政府を発足させた。しかし、この時にランジアニリナ氏は「2か月以内に各大臣が具体的な成果を上げなければ即時交代につながる」と警告していたことから、この発言に沿って今回首相・全大臣の解任に踏み切ったとみられる。実際に発表前の週末にはZ世代のほかにY世代が加わり、首相の辞任と政府の解任を求める抗議デモが活発化していた(3月9日付、仏RFI)。
事実上のクーデターにより発足した新政権は、こうした若い国民の不満への対処に腐心すると同時に、外交関係の修復・見直しも進めている。クーデターによる違憲な政権交代を一切容認しないアフリカ連合(AU)は、依然としてマダガスカルの参加資格を停止している。一方で、マダガスカルが加盟する「南部アフリカ開発共同体(SADC)」はAUと比べて比較的寛容な姿勢をとっており、SADC参加資格を停止せず、民主化に向けたロードマップを支援する姿勢を示している。1月に、ランジアニリナ氏はSADCの中核となる南アフリカを訪問し、ラマポーザ大統領に対してAUの参加資格停止引き下げの働きかけを要請したと報じられている(ISS Africa)。
また、新たな外交関係の構築にも動いている。ランジアニリナ氏は2月にロシアを訪問し、プーチン大統領と対談。医療、教育、インフラ、エネルギー分野での協力を約束した。ロシアはすでに2025年末からマダガスカルにドローンなどの武器や軍事協力を提供しており、安全保障協力を通じたインド洋での影響力拡大を狙っているとみられる。
その一方で、旧宗主国でありマダガスカルにとって伝統的に欧州で最大のパートナーであるフランスとの関係も重視している。追放されたラジョリナ前政権がフランスの傀儡政権とみなされ、国民から多くの不満を集めていただけに新政権ではフランスとの関係悪化も注目されたが、ランジアニリナ氏はロシア訪問直後にフランスを訪問。マクロン大統領と首脳会談を行い、マダガスカルで60人以上の死者が生じたサイクロン「Gezani」に対する人道支援をフランスから得るとともに、両国間の政治関係のさらなる強化を約束した。
しかし、エチオピアに拠点を置くシンクタンク・Amani Africaはランジアニリナ氏が表明している「2年以内の移行期間」自体がそもそも合法的ではないと指摘。マダガスカルの憲法上、大統領が空席となった場合(ラジョリナ前大統領の追放と弾劾)から30~60日以内に大統領選をすることが規定されており、実際に高等憲法裁判所もこれに沿って勧告を行っていた。しかし、ランジアニリナ氏がこれを無視して法的に根拠もなく、かつ国民対話によって生まれたわけでもない2年間の軍による統治を主張したと批判している。同団体はAUとSADCのマダガスカルの軍事政権に対する対応・見解が分かれている現状もふまえ、3月10日にAU・平和安全保障理事会(PSC)において実施されるマダガスカルの情勢に関する議論が重要となるとの見方を示している。
[米中首脳会談の見通し]
3月31日から4月2日にかけて予定されているトランプ米大統領の中国訪問について、訪問する都市は北京のみとなる見通しだと、香港紙『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』が報じている。
関係者によると、今回の訪問は日程が非常にタイトであることに加え、安全保障上の懸念もあるため、他都市への訪問は見送られたという。当初、中国側は北京に加えて上海など他都市への訪問も検討していたが、最終的には実現しなかった。米国の事前準備チームは3月初めに北京入りしており、首脳会談に向けた準備はすでに最終段階に入っているとされる。
最近の米国とイスラエルによるイラン攻撃など、中東情勢の緊張が米中首脳会談の準備に与える影響は「限定的」だと関係者は述べていると報じられている。一方で、別の報道では、ベッセント財務長官と何立峰副首相との協議が、中国の全国人民代表大会(全人代)後にずれ込み、準備時間が短くなったことについて中国側が懸念を示していたとも伝えられている。
中東情勢の不安定化を踏まえ、訪問時の警備体制は極めて慎重に設計されており、訪問先を複数都市に広げれば、警備や移動の面で負担が増す。このため、米中双方が北京のみの訪問で合意したとされる。
全国人民代表大会の報告や中国政府関係者の記者会見では、2026年は米中関係にとって重要な年になるとの見方が示されており、中国側が米中の一時的なデタントを維持したいと考えていること、また米中首脳会談をつつがなく終えたいと考えている姿勢がうかがえる。他方で、準備期間や訪中日程の短さから、首脳会談の成果はそれほど大きなものにはならないとの見方も出ている。
[コロンビア/選挙結果]
3月8日(日)に実施された大統領予備選と議会選挙において、大統領選の構図は明確になった一方で、議会は引き続き分裂した状態となった。このため、最終的に誰が大統領になったとしても、議会運営は困難となる可能性が高い。
今回の予備選では、中道右派のパロマ・バレンシア氏が勝利し、大統領選における「第三の有力候補」として浮上したことが注目される。これにより、これまで最有力と見られてきた左派のイバン・セペダ氏と右派のアベラルド・デ・ラ・エスプリエラ氏による決選投票という構図が崩れる可能性が生まれている。エスプリエラ氏は、予備選への参加を控えるよう支持者に呼びかけ、自身も予備選に出ずに直接大統領選へ出馬する意向を示していたものの、右派有権者の投票数は80%予想を超えており、エスプリエラ氏の指示に有権者が必ずしも従っていないことを示しており、バレンシア氏が右派票を奪いつつ影響力を広げる余地が生まれている。一方で、左派は規律を保ち、セペダ氏は左派陣営内での地位は確立されたといえる。
バレンシア氏は予備選で55%を獲得しており、右派票を維持しつつ、中道票を獲得して決選投票に進むことを目指す。大統領選挙の情勢は、不安定さが残っているが、市場寄り政策への支持が根強いことから右派が優勢な状況は変わっていない。特に、バレンシア氏の方が、中道票を取り込みやすいとの指摘も増えてきている。対米政策では、エスプリエラ氏が急進右派で、ペトロ政権下で冷え込んだ関係を修復し、麻薬対策での軍事・経済協力の強化が見込まれるのに対し、バレンシア氏は伝統的な安全保障パートナーシップの維持にとどまる見込み。
ただし、議会選挙では議席確定前ながら、報道の予測では右派寄りに傾きつつも断片化が続く見通しが示されている。ペトロ大統領の与党は最大勢力とはなるものの、全体の23%ほどと、単独過半数には遠い。また、第2党は元大統領アルバロ・ウリベ率いる右派の民主党中道党で15%となっているが20以上の政党に分裂している。どの大統領であっても法案成立には広範な交渉が不可欠となるが、議員らが単に異なる政党の反対票を連発する「拒否権政治」が予想されている。
[日本/GDP上方修正]
内閣府によると、2025年第4四半期の実質GDP成長率は前期比+0.3%、年率換算+1.3%へ上方修正された。速報時点では、それぞれ+0.1%、+0.2%だった。2四半期ぶりにプラスに転じた姿には変わりないものの、速報時点に比べてやや強い結果となった。
前期比+0.3%のうち、内需の寄与度は+0.3pt、外需は▲0.0ptであり、内需主導の成長になった。内訳をみると、個人消費は+0.3%であり、サービス産業動態統計調査の結果など反映されて、速報(+0.1%)から上方修正された。また、民間企業設備は+1.3%で、法人企業統計などが反映されたため、速報(+0.2%)から上方修正された。データセンター投資など情報通信業や都市開発など建設部門の投資が堅調だった。民間住宅は+4.9%で、速報(+4.8%)から小幅に上方修正された。民間需要の寄与度は+0.3ptであるため、内需でもとりわけ民間需要主導の成長だった。一方で、政府消費は速報の速報時点+0.1%から+0.4%へ、公共投資は▲1.3%から▲0.5%へそれぞれ上方修正された。
名目GDP成長率も上方修正されて、前期比+0.9%、年率+3.5%になった。速報値のそれぞれ+0.6%、+2.3%から上方修正された。
[ロシア/イラン情勢]
3月9日、ロシアのプーチン大統領は、イランでの軍事衝突やウクライナ和平交渉を巡って米国トランプ大統領と電話協議した。2025年12月以来となる電話協議は約1時間にわたったとみられる。ロシア大統領府によると協議では、プーチン氏がイランでの軍事衝突について、イランのペゼシュキアン大統領や湾岸アラブ諸国首脳との協議も踏まえ、早期の政治・外交的な解決を求めたとされる。両首脳はほかにも、ウクライナ問題や石油市場の動向を巡って、ベネズエラの情勢についても協議したもよう。
3月9日、プーチン大統領は、死亡したハメネイ師の後継となる新たな最高指導者にモジタバ・ハメネイ師の選出が決まったことについて、イラン側に祝意を表した。友好国であるイランの体制転換を阻止しつつ、米国からはウクライナ和平を巡って自国に優位な条件を引き出す思惑がある。
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