デイリー・アップデート

2026年3月17日 (火)

[アルゼンチン/大統領のスキャンダル再燃] 

ミレイ大統領を巡る暗号資産スキャンダル、通称「クリプトゲート」が2026年3月現在、新たな証拠の浮上により再燃している。この事件は、ミレイ大統領が、自身のSNSで「$LIBRA」という暗号通貨を推奨する投稿を行ったことから始まった。その直後に$LIBRAの価格が爆発的に上昇し、時価総額は一時約40億ドル(約6,000億円超)に達したが、投稿からわずか数時間後、開発者とみられるものが大量に売却された後、価格は90%以上暴落し、推定2億5,000万ドル(約370億円)以上の投資家資金が失われたとする事件だ。大統領は、詳細を確認せず、民間企業の活動を応援しただけとして、自分は関与していないと釈明していた。その後、汚職局も免責を認めたために、スキャンダルは沈静化していた。しかし、警察による携帯電話の通話記録の新たな分析により、この説明に疑問が生じている。

 

記録によれば、ミレイ大統領はSNSへの投稿の直前、暗号通貨の仲介役とされるマウリシオ・ノヴェリ氏と複数回、電話とメッセージをやり取りしていた。ノヴェリ氏の携帯電話には、ミレイ大統領がこのミームコインを公に支持する見返りとして、約500万ドル相当の契約が用意されていた可能性を示す文書が保存されていたとされる。

 

この新たな情報は、大統領が直接関与していなかったとする政府側の公式説明と矛盾する。事件直後に、ソーシャルメディア上で批判と非難が一気に広がり始めた後も、大統領の妹のカリーナ・ミレイ氏も含めた通信が続いていたことも記録されているという。

 

これらの通話記録、メモ、メッセージから、$LIBRAの宣伝投稿は単なる「誤解」や「うっかりした投稿」といった説明では片づけられない、組織的かつ計画的な動きの一部だった可能性が浮かび上がっている。今後の捜査と議会での追及次第では、この$LIBRAスキャンダルがミレイ政権にとって最大級の政治的リスクとなるおそれも指摘されている。

 

経済上でも、先日アルゼンチンウィークにて国際投資家にアピールしたばかりではあるが、ミレイ大統領自身の信用の失墜は致命的となる。また、暗号通貨自体は、米国人開発者が関わっているため、アルゼンチン国内の捜査だけでなく、米国の司法当局も調査を進めており、国際的な法廷闘争に発展する可能性もある。

[米国/鉱工業生産] 

連邦準備理事会によると、2月の鉱工業生産指数は前月比+0.2%となり、市場予想(+0.1%)を小幅に上回った。1月(+0.7%)から減速したものの、4か月連続のプラスであり、生産活動は緩やかに増加している。

 

内訳を見ると、製造業は+0.2%と1月(+0.8%)から減速したものの、2か月連続で増加した。鉱業は+0.8%、1月(+0.9%)から小幅に減速したものの、これも2か月連続のプラスだった。それに対して、公益事業は▲0.6%で12月(+6.0%)と1月(+0.1%)のプラスから3か月ぶりに減少した。製造業では、耐久財(+0.1%)が4か月連続のプラスになった。特に、自動車(+1.7%)や電気機械(+1.1%)、木製品(+1.0%)などの伸びが目立った。また、非耐久財(+0.2%)は、2か月連続で増加した。化学(+0.9%)やプラスチック(+0.5%)などがけん引役になった。なお、鉱工業全体の稼働率は76.3%、製造業は75.5%であり、1月からおおむね横ばい圏を推移している。

 

また、NY連銀によると、3月の製造業景況指数は▲0.2となり、2月(+7.1)から低下した。市場予想(+3.9)を下回った。この指数はゼロが好不調の境目であり、3月は▲0.2とマイナスなので製造業は不調だったと解釈される。ただし、3月の調査期間は3月2日~9日であり、イラン戦争開始直後にあたり、それらの影響が十分に織り込まれていない可能性もある。

 

内訳を見ると、新規受注は6.4(+0.6)へ小幅に上昇した一方で、出荷は▲6.9(▲5.9pt)へ低下した。また、支払価格は36.6(▲12.5pt)、受取価格は21.4(▲0.8pt)へいずれも低下しており、価格上昇の影響はまだ表れていなかった。また、雇用は5.8(+1.8pt)へ上昇した。

 

中東情勢の緊迫化やエネルギー価格の上昇は今後の経済指標に表れると予想されるため、経済・物価への波及経路を想定しつつ、これらの指標から状況を把握するために、引き続き注視する必要がある。

[ポーランド/サイバー攻撃] 

ポーランド・NCBJ(国立原子力研究センター)へのサイバー攻撃事案が発生。3月12日、ポーランド政府はNCBJのサーバーに対する侵入試行を阻止したことを公表した。MARIA研究炉(唯一の国内研究炉)は安全にフル出力で稼働継続し、業務・研究には影響がないとセンターは声明で強調した。攻撃はイランが関与している可能性を示したものの、攻撃者が発信元を偽装する「偽旗」の懸念を政府自ら示しており、最終判断は保留されている。本事案はメールや業務系統などIT層が狙われ、OT(Operation Technology)とされる炉の制御系には影響ないとされている。政府の対応としては、①即時公表と当局の連携を進め、②偽旗を織り込んだ慎重な判断を維持しつつ、③新サイバー法の導入や制度面など政府戦略強化の継続、公共のサイバー能力強化と整理ができる。また、電力・熱供給を狙った攻撃も公表されており、インフラの防御強化が喫緊の課題として示されている。

[アフリカ/中東情勢と肥料高騰] 

中東情勢の緊張とホルムズ海峡の閉鎖による肥料価格の高騰は、アフリカの国々でのさらなるインフレ圧力となり得る。

 

農業はサハラ砂漠以南のサブサハラ・アフリカ(以下、サブサハラ)のGDPの約2~3割を占め、就労人口の約過半を占める重要なセクターだ。生産性の低さから穀物などの食料の輸入量も多いが、肥料は食料生産の向上において極めて重要な農業資材である。サハラ砂漠以北の北アフリカには、世界最大のリン酸肥料生産企業のOCPを擁するモロッコのほか、エジプトやアルジェリアなど肥料輸出大国がある一方で、サブサハラは肥料の純輸入国だ。2024年の国連統計によると、サブサハラ49か国の肥料の輸入額は約59億ドルで、日本の約9億ドルをはるかに上回る。肥料の総輸入量に対する割合は1.3%と、石油(20.2%)や、穀物(3.5%)に比べれば小さいものの、それでも日本の0.1%よりも大きい。したがって、世界的な肥料の高騰や供給のひっ迫が続けば、サブサハラでの食料生産に影響を及ぼし、食料価格を押し上げる要因となり得る。

 

サブサハラで最大の肥料輸入国はアフリカを代表する南アフリカ(南ア)で、約11億ドル。次いで、ザンビア(6億ドル)、ジブチ(5億ドル)、タンザニア、ケニア(4億ドル)が多い。うち、マラウイやザンビアといった国々では肥料の輸入が総輸入量の5%を超えていることから、肥料価格上昇の影響をもっとも受けやすい国といえる。また、肥料の輸入先の情報も重要だ。マラウイ、タンザニア、ケニアは地理的な近接性から、石油同様にアラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアといった湾岸諸国からの輸入が最も多い。そのため、ホルムズ海峡の事実上の封鎖はこれらの東アフリカの国々への肥料供給にも影響を及ぼす。ザンビアやジンバブエといった南部アフリカの農業国は南アで生産された複合肥料(2成分以上を含む肥料)の輸入の割合が多い。しかし、その調達先の南アも肥料原料となる原油や、複合肥料の原料となる化学肥料(尿素、リン酸、カリなど)の輸入におけるサウジアラビアの割合が高い。そのため、南アで肥料価格がすれば、輸送費(ガソリン)の上昇も相まってザンビアやジンバブエといった内陸国ではさらに肥料価格を押し上げる可能性がある。

 

一方、サブサハラ最大の産油国であるナイジェリアは、サブサハラ最大の肥料生産国でもあり、2024年には8億ドルを輸出した肥料の純輸出国である(国連統計)。国内ではナイジェリア最大のコングロマリットのダンゴテ・グループは最大都市ラゴス近郊にアフリカ最大の尿素肥料工場(年間約300万トン)を操業しているほか、シンガポール系企業・インドラマもポートハーコートで肥料生産を行っている。ダンゴテはナイジェリア国内の肥料生産容量を800万トンまで拡大させる計画を示しているほか、2025年8月にはエチオピア・インベストメント・ホールディングス(EIH)との合弁でエチオピア国内の天然ガスを活用した300万トンの尿素肥料プラント建設を発表している(約25億ドル)。現状、ナイジェリアの輸出用の肥料はブラジルなどサブサハラ域外にその多くが輸出されているが、サブサハラ域内での肥料生産の拡大が今般の中東情勢の緊迫化のような有事の際のリスクヘッジとなり、食料インフレを抑えるとともに食料安全保障を守る一つのカギとなり得る。

[インドネシア/財政赤字拡大と上限論] 

3月15日、インドネシアのプラボウォ大統領はブルームバーグとの取材にて、原油価格が今後も高止まりした場合は、財政赤字GDP比が法定上限(GDP比3%)を一時的に超過することも容認する姿勢を示した。13日には、アイルランガ経済担当調整相が閣僚会議にて、コロナ禍の際に実施したような法定上限の一時凍結も検討していると発言していたほか、プルバヤ財務相も同様の発言を行っていた(Nikkei Asia、2026年3月13日付記事)。

 

プラボウォ氏が大統領に就任して以降、財政赤字GDP比が2024年・2025年には2.3%・2.9%を記録するなど、赤字が拡大傾向にある。石炭・LNG・パーム油など主要輸出品の資源価格高騰終息によるロイヤリティ収入の増加幅低迷が影響したが、他方でプラボウォ氏が大統領選挙の公約として掲げていた無料給食プログラムによる歳出の増加も赤字拡大要因となっている。また税収面では、元々計画されていた付加価値税率の11%から12%への引き上げにつき、2024年12月にプラボウォ大統領が高級アパート・高級車などの奢侈品に限定することを発表するなど、中長期的な財源確保についても不透明感が増している。直近の1~2月までの累計財政赤字のGDP比は0.53%と、2025年(同0.13%)の水準から大きく拡大している。無料給食プログラムの予算執行スピードが速かったことが一因となっている。

 

イラン情勢を踏まえた原油価格高騰や直近のルピア安を踏まえ、エネルギー補助金の増額が懸念されている。同国は原油・石油共に純輸国であるが、ディーゼル・レギュラーガソリン(オクタン価90)等の石油製品を国際市況価格にて購入したうえで、それよりも低い小売価格で民間部門に提供している。両者の差額分についてエネルギー補助金供与という形で補填している。2022年の資源価格高騰・ルピア安時には、エネルギー補助金の増額に歯止めをかけるために、オクタン価90のガソリンの小売価格を約30%値上げした。2026年の歳出見込額は3,843兆ルピア(約38兆円)、GDP比約15%であるが、そのうちエネルギー補助金は210兆ルピアと、GDP比で1.5%(歳出全体の約1割)を占める。本予算は、原油価格が年平均で1バレル当たり70ドル、ルピアの対ドルレートが1ドル16,500ルピアを前提として算出されている。他方で直近では原油価格(ブレント価格)が1バレル100ドル以上で推移しているほか、格付機関による見通し引き下げなどを踏まえルピアの対ドルレートが1ドル17,000ルピアに迫っていることを踏まえると、小売価格を大幅に引き上げない限り増額は避けられないとの見方が多い。2022年に資源価格が高騰した際も、エネルギー補助金が当初予算から3倍以上まで増額していた。

 

インドネシア政府としては、財政赤字法定上限を遵守するか、一時撤廃を容認するかどうかの二択を迫られている形となっているが、両者ともに政治・経済的な悪影響が想定される。法定上限を遵守する場合は、2022年と同様にガソリンの小売価格を引き上げると同時に、地方交付金などの歳出を削減・2027年度に後ろ倒しする必要があるが、これによりインフレに拍車がかかるほか、地方でのインフラ建設に遅れが生じることになる。また歳出全体のうち約1割を占める無料給食プログラム向け予算の削減については、政治的な反対が大きいことから困難とされている。他方で一時撤廃を容認する場合は、市場の財政への信認低下に繋がり、ルピア安・国債利回り高騰に拍車がかかることになる。2020年に上限を一時撤廃した際には、スリ・ムルヤニ元財相の下での財政健全化策に対し市場の信認が保たれていたことから大幅なルピア安・国債金利高騰は回避できたが、同氏が罷免され、海外投資家が財政・金融政策の信認に対し懸念を示し始めている現段階でも回避できるかは不透明である。

[中国/対日批判論評] 

3月17日、中国共産党機関紙『人民日報』に、日本の「新型軍国主義」の台頭に警鐘を鳴らす論評が掲載された。執筆者の「寰宇平」は同紙編集部のペンネームであり、論評は中国の対外認識や公式論調を反映している。

 

記事は、日本の高市早苗政権が憲法改正への意欲を示し、防衛力の強化や武器輸出の拡大、情報能力の向上などを進めている点を挙げ、日本が再軍事化を加速させていると批判している。さらに、こうした動きは軍事分野にとどまらず、産業、技術、インフラなど社会の幅広い分野に軍事的要素を浸透させる試みだと述べている。現在の日本の軍事化は、旧来の軍国主義の拡張志向を受け継ぎつつも、「防衛」や「平和」といった言葉で覆い隠された新たな形態の軍国主義であると論じている。

 

その背景として論評は、日本では戦後に軍国主義の清算が十分に行われず、その結果として政治の右傾化が進んだこと、経済停滞や社会不安が対外的な強硬姿勢を生み出していること、防衛産業をはじめとする利益集団が軍備拡張を後押ししているという中国側視点を挙げている。特に、防衛費の増加によって軍需企業が多大な利益を得ており、政治と軍需産業が結び付いた「軍工複合体」が形成されつつあると批判している。

 

さらに論評は、高市政権が防衛費を国内総生産(GDP)の2%水準まで引き上げ、長距離攻撃能力や無人兵器など攻勢的な能力の整備を進めている点を強調し、これを日本の軍事政策の重大な転換として問題視している。台湾問題への関与や日米同盟の強化も、日本が地域の対立をあおっている事例として取り上げている。

 

このような論調が、今後、中国側が日中関係を論じる際に当面継続される可能性が高い。目下のところでは、トランプ米大統領によるホルムズ海峡の安全確保への支援要請に対し、日本政府がどのような対応を取るのかを中国が注視しており、その決定内容を批判する可能性を示唆している。また、中国が対日輸出規制を発動する際、「軍工複合体」の一部とみなされた企業が標的となりやすいというリスクも示している。

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